肆:初めてのお出かけ

 「じゃ、頑張ってー!」

 昼下がり。空はすっかり晴れて、雲の隙間に青空が見える。

 飛鳥瑠君は上着を腕にかけ、門の外へ。帰っていった。

 「せっかく菓子折り用意したのにー。帰っちゃった。」

霧斗君はどら焼きを載せた丸いお盆を持っている。

 「たーべっちゃおっ!」

私は手を伸ばして一つ取り、頬張った。こしあんのなめらかさが口いっぱいに。

 「おいひー」

 「食べながら喋らないの。」

そう言いながら、霧斗君は私の頬に付いていたであろうこしあんの欠片を拭った。私の顔はぐに真っ赤になった。

 「しっ、しつ、、失礼!」

 「そんな照れてどうしたの?」

照れてなんかない!と言いたいが、口が塞がって開かない。はずかしー。

 霧斗君はお盆をちゃぶ台に置いて、保安官の制服に早着替え。でもまだ出勤の時間ではない。異様に早いのだ。不思議に思って彼をじーっと見ていた。察したのか、

 「あなたに似合った武器を貰いに行きましょう!」

と放った。

 「はい?」

当然の反応だと信じたい。

 「外行きの服は持ってます?」


 ということで、駅に来た。ホームが一つだけの、スイッチバックの出来る仕様。ご丁寧に屋根がしっかり備わっていて、照る日を遮ってくれる。また、ホームドアと言うらしい柵もあった。

 「新交通は初めて?」

 「な、何故それを?」

田舎者いなかものだとバレてしまうー。はずかしー。

 「首をキョロキョロし過ぎです。都会行ったら倒れちゃいますよ。」

彼は少し嘲笑ちょうしょうしながら言った。余計に恥ずかしい。

 「父がこういうのを使わない人なので……」

 「そうですか。」

私たちは長椅子に座り、新交通?を待った。さりげなく光る電球がどこか温かみを出しているように思えた。

 ヴォーン!

と警笛を鳴らし入線してきたのは、5両編成の列車だった。ガイドウェイの上をタイヤで走る、AGT(自動案内軌条式旅客輸送システム)。青いラインの入った車体には、1両に一つドアがあり、脇の窓には降りてくるであろう乗客の姿も見えた。

 ホームドアに見事合うように止まり、車体とホームのドアが開いた。

 私が乗ろうとした時、

「降りる人が先だよ。」

と霧斗君が体の前に左腕を伸ばし、私を止めた。

 「ああっ、はい……」

 実はこれ、海外ではあまりやらないそうです。詳しいことは分かりませんが。

 全員が降り、いよいよ乗車。ドアの上には案内表示の電光掲示板(LCDタイプ)とつり革が目に入った。紫色のふかふかな椅子に腰を掛け、出発を待つ。

 「本当に使ったことがないんですね。」

霧斗君は椅子には座らず、つり革を両手で持ち、私の前に立っていた。

 「なんか、すみません。」

 「いえ、別にそんなことは……」

 私は電光掲示板を見た。到着予定の駅と所要時間、現在時刻が表示されていた。

 「どこで降りるんですか?」

 「日向町ひゅうがちょうってとこで降りましょう。保安部の事務所があります。」

 日向町。3つ先の駅でここ、森中路もりなかしの駅からは12分ほどかかるらしい。


 「ご乗車頂き、ありがとうございます。—―——―—」

車内放送が流れ、列車は出発した。性能のいい加速で、走行音もかなり静か。寝ている他の乗客もちらほらいる。ただ今午後1時。

 車窓からの景色は、田園地帯や針葉樹林の中を爽快に走ったものだった。速い。

 「どう、速いでしょう。」

 「ええ、とっても。」

 そんなこんなで着いたのは、海の見える町だった。降りて、海とは反対の改札を出出ると商店街と思われる長屋が連ねてあり、活気に満ちていた。

 「日向町。活気のいい湊町みなとまちさ。」

 舗装はされていないものの、綺麗に整備されたみちを歩いていた。多くの人の行き交いや潮風の香り。私にとっては新鮮な光景だった。だけど霧斗君には、なんの特別味もないだろう。彼に案内されるまま、私は歩いた。


 「駅から遠いんだよなぁココ。」

着いたのは、異彩を放つモダンな建物。ここが保安官の事務所だと言う。案内されるがまま、中に入った。中もそれっぽい造りで、ただの綺麗な役所というイメージが強い。

 「春野はるの様、お待ちしておりました。幾つか揃えが用意できましたので案内します。」

 「ありがとう。助かります。」

 保安部で働いているであろう眼鏡を掛けた青年が出迎えた。

 地下の一室に案内され、青年がドアの鍵を開けた。

 「では、これで。」

彼は軽い足取りで帰っていった。

 「何ですか、ここ?」

 「ここ?」

 霧斗君はドアを開けた。

 

 「武器庫だよ。」

一面に多種多様な武器のたぐいが置いてあった。

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