第18話 事後

 煙幕が晴れ、八朔の逃走を確認する。仁王立ちで思いっきり溜息をついた。二人も参ったような顔をしている。

「あれが芥で間違いない」

 面識のある朱現くんが言う。

「そうなんだろうね。強かったもん」

 本当にそう思う。

 一くんは鞘に納めたままの刀で戦った朱現くんを見遣った。

「おい、そんなんじゃいずれ殺されるぞ」

「…それなら、それでいい。もう刀は抜かない」

 私も、一くんと同じように思う。それでも、朱現くんが決めたことは尊重したいとも思った。


 剣や戦闘に参加しなかったるかくん、巴さん、永倉さんが主導となり、ほぼ鎮火は済んでいた。杉村家、至家と林檎ちゃんが救護にあたっており、心強い。

 あちらこちらの建物は崩れ、焦げていた。煙の臭いが立ち込めている。


 剣の一員、真木が私たちを探してくれていた。姿を見つけるやいなや、救護拠点に引っ張られた。私は負傷ありで血塗れ。他二名は大した怪我はないものの、煤やら灰やらで汚れていた。


 救護拠点には人が溢れかえってはいたものの、重傷者はそこまで多くなかった。しかし被害は老若男女問わずに及んでおり、痛ましい。母親と座り込み、治療を待っている小さな少女の顔に火傷があるのを見つけ、屈みこんだ。

「ごめんね、痛かったよね」

 顔に手を添えながらそう言うことしかできなかった。自分の背に残っている火傷の痕を思い出してしまった。


「真木、京たちは自分で何とかする。着替えだけある?」

 それぞれに差し出される着物と簡単な手当の道具。懐から数時間前に使ったばかりの蝶の軟膏も取り出す。

「そういうとこ、好きだよ。ありがとう。…残党がいた場合の処遇は任せる」

「承知いたしました」

 来る途中に大まかな出来事は説明してある。一礼し真木が立ち去った。剣なら残党らは警官に協力を仰ぎ捕縛に動くはずだ。生死はどちらでもいいが、今は情報源が欲しい。まだ、事の欠片しか知らないような感覚がある。


 よく見渡すと、救護拠点は湯屋らしい。しかも温泉が湧いている!至の助手を名乗るお姉さんに案内される。湯屋の周辺は町衆によって優先的に消化がされたことを教えてくれた。町の人らには謝りきれない迷惑をかけてしまった。


 芥が行動を起こすのは、避けられなかったのかもしれない。でも、この町で皆に接触する必要は無かったはずだ。私の判断が浅はかだった。


 身体を洗おうと思ったが、手の傷が思いっきり開いていたのを思い出す。申し訳なく思ったがお姉さんに手伝ってもらうことになった。仕切りを置いてくれたので、二手に分かれ汚れを落とす。簡単に傷薬を塗ってもらい包帯を巻いて着替え、真木は髪紐もくれたので、髪をくくる。私と朱現くんは救護の手伝いに向かった。一くんには巴さんとるかくんの様子を見に行ってもらう。


 胡蝶ちゃんと合流し、指示を受け動く。胡蝶ちゃんは軽症者を診ていたようだ。ある程度の心得はあるので、円滑に作業に入ることができた。痛さに泣く子供を見ていると過去の私に重なるのが辛い。手当が済み、皆ありがとうと言うが、ごめんなさいという言葉しか出てこなかった。

 医家の人手の力が大きく、一時間程度であらかたの手当てが終わっていた。巴さんとるかくん、永倉さんの軽傷も診てもらえ、最後におずおずと私の手を見せると拳骨が落ちた。それでも胡蝶ちゃんはそれ以上怒らなかった。

「こんなのは薬じゃ治らないよ」

「だよね…ごめんなさい」

 そう言って、傷を少し縫ってくれた。


 重傷者は杉村家の大お姉さん、永倉さんの奥さんが診ていたようで、そちらに顔を出す、と胡蝶ちゃんと林檎ちゃんは手を振って一度別れた。


 私たちは湯屋の外にでて、《芥》に関する情報と今回の放火に関して共有することにした。周りに人がいなくなって、永倉さんがすぐに口を開く。

「…元新選組隊士が関わっている。この件に」


 事態はさらなる混迷へ進んでいく。

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