はずれだけのくじ

朔月

描くということ

わからない、理解できない。沸々と湧き上がる怒りはどこに向けられたものなのか。へらへらと笑う目の前の女の横っつらにドーナツを叩きつけたい衝動をどうにか我慢して質問を続ける。

「どういうこと?」

「???、だから、大抵のことはやってできないことはないでしょって。絶対にできないこともあるけどさ。」

何を言っているのだこいつは。そしてなぜわからないこっちがおかしいみたいな表情をするのか。

しゃらりと布の擦れる音がする。彼女は腕を組んで言う。

「君だって同じだろ?」

はあ?????こちとら血反吐吐いて自分自身を穿って削りとって、そうやって、そうやって必死こいて一枚一枚描いてるってのに。飄々と毎回最大値を更新するお前に言われてたまるかよ。

「一緒にすんな」

なんで、なんで、なんでわかんないんだよ。もはや種が違うのではと思うほどに差があるというのに、

「またまたー」

なんで私は、こんなにも残酷なこいつを手放せないのだろうか、

「お前は才能あるよ」

圧倒的な成長スピードの差や才能の有無、嫉妬とか羨望とかそういった醜い感情も全部全部、どうしようもならないことだとこいつから学んだ。私のような凡人は抱え続けるしかないし飲み込み続けるしかない。愚直でも、「当たり」が出ずとも、くじを引き続けるしかないのだ。そうすることでしかこいつの隣に並べないのだから。

「え?なになに?君が褒めるなんて珍しいね。」

まばゆいほどの才能の煌めきはきっと私の身を焼き続けるのだろう。それでも離れられないのはきっとその煌めきが抗いようもなく美しいから。

歳をひとつとった、たったひとつ、年齢が変わったくらいで変わるほど人生というものは簡単ではないらしい。20という節目だから、周りは若さをもてはやしては祝う。怒りも悲しみも苦しみもどんなに激しい情動でさえ諦観で包んで抱いてしまえばそれは途端に優しくなる。それを諦めてもいいのだと、激しい情動たちは言う。抱えきれないものを全て追う必要はないと諦観は囁く。時は全てに効く特効薬なのだと、若干20にして私は知っている。

『描き続けるしかないんだよ、私は』

苦しそうに言った彼女の瞳を思い出す。

『私は描かなきゃ、生きてけない、』

苦しそうなのに、彼女の瞳の中は才能の煌めきと熱情で溢れていてどうしようもなく羨ましかったのを覚えている。全て色褪せてしまうのだ。この記憶の中の彼女の煌めきも全て。色褪せてしまっても何かの拍子に諦観は解凍され生々しい情動が身を襲う。自分の可能性を捨てたこと、自分を信じることをやめたこと、全部全部深い苦しみになって自分の中にこびりついている。

20を超える前に覚えた酒は今も私の体を蝕んでいる。酒に蝕まれても諦観が身を巣食ったとしても、まだ諦めの悪い私はくじを引き続けている。「天才」という当たりが出るまで。彼女の隣に並び、対等に競える権利が手に入るまで。

「引き続けるしかないんだよ、」

彼女の隣にいるためには。

車のライトに照らされてはうごめく影は真冬の陽炎だ。ぐわんぐわんと酒で揺れる脳みそと真反対に視界は寒さではっきりしている。今日の月はひどく遠い。

努力なんて簡単なもので彼女の隣は手に入らない。努力なんて誰にでもできる代物で手に入るはずがないのだ。私だって彼女だって努力なんざ呼吸するみたいにしている。彼女の才能はそんなものじゃない。私と彼女の差は努力なんてチンケなものじゃない。もっと残酷で明確で白と黒みたいに混ざり合うことない何かだ。吐く息が真っ白けに染まってはぷわり浮いては溶けていく。

それでも私は諦め切れないまま、

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はずれだけのくじ 朔月 @Satsuki_heat

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