第27話

 あの出来事の後からしばらくの間は、想先輩の腕に巻かれた包帯は取れなかった。先輩と会う度に、フラッシュバックする。冬の冷たい風に吹かれて揺れる髪と瞳。綺麗な血。夢のようだった。きっと死ぬときはこんな走馬灯を見るのだろう と思った。


 気がつけば、三月になっていた。あっという間に通学路は白色から緑色になっていて、あっという間にカレンダーはめくられていた。三年生はもう少しで卒業してしまうらしい。ういは無事に進級できると担任から伝えられて、ほっとしていた。今日は 天気が良く、想先輩と二人で屋上に来ていた。


「 先輩は、卒業したらどこに行くんですか。 」

ずっと気になっていたことを聞いてみた。正直、離れてほしくなかったが こんな田舎には勿体ないくらいの人だと思う。

「 うーん⋯。どこに行くんだろうね。 」

他人事のように言う先輩は、澄み渡る空を見つめていた。なんとなく反応しづらい。返し方を考えながら 空を見上げると、一筋の長いひこうき雲が見えた。飛行機は、空に境界線を引くように、真っ直ぐ進んでいた。

「 ひこうき雲が長い間見えたら、次の日は晴れになるんだよ。 」

 想先輩は、宙を指さしながらそう口にした。⋯ん?ひこうき雲が長い間見えた次の日は、雨が降るのでは? ツッコもうかと迷ったが、止めておいた。ういの勘違いかもしれないし、それに──

「 先輩の好きな晴れの日で、良かったです。 」

 先輩の目を見つめて微笑んでみる。先輩は、こちらを見てきょとんとしていたが、少しだけ口角を上げてくれた。さらに、

「 ういちゃんは、本当にいい子だね~ 」

と頭まで撫でてくれた。やっぱり、この空間にいるときが一番大好きだ。この、先輩と二人きりで話す時間よりも良いものは無いと思える。

「 明日は、ここでお昼寝しようかな⋯。 」

先輩は、地面に寝転がって目を瞑り、寝息を立て始めた。ういは小さく独り言を言いながら、隣に横になった。

 どうして、人はまだ見えもしない明日が必ず来ると思ってしまうのだろう。

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