第25話

 気がつけば、もう年が変わって冬休み真っ最中だった。それくらい、12月はあっという間だったようだ。ういは、冬休み中はひたすら こたつで課題を進めていた。先輩に会いたいとは思うが、家も電話番号も知らないため仕方がなかった。



「 ういちゃん 、久しぶりだね。 」

 三学期の始業式の日、先輩は後ろからひょこっと顔を出して、廊下で声をかけてくれた。冬休み中はずっと先輩との会話を思い出したり、妄想をしたり、そういう意味では忙しかった。

「 先輩は元気そうで良かったです。 」

「 なに、ういちゃん 体調悪い? 」

「 あっ いや 、明日から持久走が始まるので 気分が下がっていて⋯。 」

 浅くため息をつくと、先輩は少し驚いた表情をした。何かおかしいことでも言っただろうか。

「 ういちゃん 、 授業サボらなくなったんだね。 」

 先輩は頭をぽんぽんすると、すぐに教室に戻ってしまった。ういは 顔が火照るのを感じた。また授業を受ける糧ができてしまったのかもしれない、なんて。


 次の日、ついに持久走の時間がやってきてしまった。中学生の頃は 毎回見学していたが、今年は頑張ることにしたのだ。先輩に頭を撫でてもらうために頑張ることにした。

 先生の合図で、みんな一斉に走り出した。このグラウンドを10周なんて馬鹿げた話だ とは思いつつ、できるだけ何も考えずに走ろうとした。持久走をしていると、みんなと一緒に自分も進んでいるはずなのに 周りの方が速く進んでしまうため、劣等感を抱いてしまうからあまり好きでは無い。

 息が上がってきた。吐いて吸うたびに、ひゅっ と喉から音が出る。これはヤバイ。速度を下げて走っていたが、限界が来たようだ。でも、ここで辞めてしまえば先輩は何て言うのだろう。そう考えるほどに、空を見上げながら腕を振ってしまう。もう意識は朦朧としていた。我に返ったのは、先生やもう走り終わった同級生が必死で自分の名前を呼んでいることに気付いた時だった。

「 桜木さんっ 、桜木さん 、 」

 もつれそうになる脚を動かしながら、同級生の方を見る。そんなに心配した顔をして、一体どうしたのだろう。靴紐でも解けているのだろう と確認するために下を向い走ろうとした。すぐに脚が止まった。紅くて黒い液体が白い靴に零れてきている。⋯ 血?手の甲で開いたままの口を閉じるように拭った。手の甲は異常な赤さの血液がついていた。


「 ⋯ ったですね。あと少しで ⋯⋯ ね。 」

 誰かの声が聞こえる。この声は保健室の先生だ。

「 ⋯⋯ 、私のせいなんです。すみません。 」

私のせい ? 聞きなじみのある声はそう言った。この声は想先輩のものだ。声と一緒に、鼻をすする音も聞こえた。ういは、ただぼんやりと耳を澄ますことしかできなかった。

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