第24話

「 寒いしカフェの中に入ろうか。 」

 ういは片手だけ手袋を外して先輩と手を繋ぎながら歩いていた。直接手を握った方が、 先輩を感じられるから。こくりと頷いて、歩く向きを変えた。

「 なんだか 恋人みたいですね。 」

 そう口にしてみる。チラリと先輩を盗み見る。一瞬きょとん としていたものの、すぐに笑って

「 そうだね。 」

とだけ口にした。ちょっとだけ期待してしまったから、余計に足元を見てしまう。


 レトロな喫茶店に踏み入れると、温かい空気とぶつかった。指先がじわりと溶けそうなくらいに外が冷えていたことに気付いた。案内された席に座って、メニューを開く。何かと昼食を取るにはぴったりな時間になっており、ういは 紅茶とサンドイッチを頼んだ。

コーヒーとグラタンを頼んだ先輩は、また ぼんやりしていた。 運ばれるのを待っている間に、先輩に話を振ってみる。

「 コーヒー 飲めるなんて、大人ですね。 」

 先輩は、ふっと表情を緩めた。なんだか、本当に大人のように思えてくる。両手で頬杖をついて、こちらをじっと見ている先輩も可愛かった。

「 そんなことないよ。それに、私は ずっと今のままがいいな。 」

「 ういも、先輩といられる今のままでいたい。 」

 にっ と笑ってみる。先輩も、優しく口角を上げてくれた。さっきまで冷えていた体内は、徐々に あたたかく なり始めていた。ちょうど、店員さんが ご飯を運んできてくれたため 話は中断された。


 結局、デザートを頼んだり話をしているうちに、もう空は暗くなっていた。店を出てから、ういは話しすぎたと反省した。せっかくのデートなのに、とつい口に出してしまって 二人の間に冷たい風が吹く。どうすべきか迷っていると、先輩は無言でういの手を取って駅の方に歩き始めた。ういは 先輩の横顔を見ることしかできなかった。

「 今日は、本当に楽しかった。買い物をするとか、遊園地に行くとか、そんな特別なことよりも。こんな何気ない日も覚えていてくれる方が、私は嬉しい。 」

 視界が歪む。先輩は、どこまでも優しかった。空の輝きも ぼやけるせいで幻想的だった。


「 想先輩は、ういのこと好きですか。 」


 目を見開いて、ういを見詰めている。自分の鼓動が速くなっているのが分かる。想先輩は、少しかがんで目線を合わせた。


「 だいすき。 」


 宙に溶けてゆく白い息。鼻の先を赤くした先輩の無邪気な笑顔。淡い藍色の声。イルミネーションよりもまばゆく、ういの心には 明かりが灯された。

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