第23話
今日は、学校を休まずに授業をしっかり受けた。ういは 妹のことも口にしなくなり、見えなくもなった。もう11月。3年生は進路のことで忙しそうにしている。本来なら先輩のところへは行かない方が良いのだろうけれど、せめて見るだけなら と教室を覗きに行った。
今日は、綴先輩も来ていた。いつもなら友達と話していたりするのだが、赤本と見つめあっている人も多いからか 誰とも話さずに、席でぼんやりとしていた。大きな声で呼ぶのは迷惑だと思い、視線で気付いてもらおうとした。先輩は、すぐにこっちを見てくれた。何かに引っ張られているような歩き方をしながらドアの方まで来てくれた。
「 ういちゃん、久しぶりだね。 」
「 すみません、忙しい時に … 。 」
「 ううん 、私 受験しないから大丈夫だよ。 」
そうなんですか 、とだけ言った。先輩は こんな田舎から出ていってしまうと思っていた。
「 あ、今度さ、隣町までデートしに行こうよ。 」
さっきまでの雰囲気とは変わって、いつもの先輩に戻っていた。にぱっと微笑んでいる。思わずういも笑顔になってしまった。
「 もちろんです 、楽しみにしておきます。 」
予鈴が鳴り、先輩に手を振って1年生の教室に戻った。
雪が降り始める季節になった。綴先輩は、再び学校に登校し始めたあの日から、ぼんやりしていることが多くなった気がする。周りの人たちが焦って必死に勉強しているのを邪魔しないようにするためか、ただ暇なのか。何にせよ、ういには好都合だった。先輩を他の人に取られることもなく、デートという予定まで作れてしまうなんて。
そして、今 ういは電車に揺られている。隣には綴先輩が座っていて、向かい側の窓を眺めている。そう、今日はそのデートの日。この地域は 服屋もなければ 散髪屋もないようなところだ。隣町まで行かなければ遊びに行けるところはなかった。
「 見て ういちゃん、雪降ってるよ。 」
先輩は、ういの肩をトントンと触って窓を指差した。前みたいに、にぱっと笑う先輩の顔だった。
「 ういたちが 歩き回るときも、降っていたらいいですね。 」
微笑み返してみる。最近、先輩と話す時はできるだけ笑うようにしている。先輩も笑ってくれるかもしれないから。
一時間くらい乗った電車から降りると、まだ雪は降っていた。隣町は ういたちからすると都会で、ういは 目を輝かせた。先輩は ういと違って手袋をしていなかったため、手を擦りながら辺りを見回していた。
「 あっ、先輩。手、貸してください。 」
「 え~ なになに? 」
ニヤリと口角を上げながら手を差し出してくれた。ういは 先輩の細くて少し赤い手をぎゅっと握り、 口元に近付けて息を吐いた。少しは温かくなっただろうか。顔を上げて、先輩の表情を見てみる。頬の淡い色は、灰色の空によく映えていた。
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