第20話
秋の心地よい風が吹く夜、夢を見た。とても鮮明で、特別な日ではない、ごく普通の日常の夢。夢というよりも、フラッシュバックのようなものだった。
「 先輩は朝ご飯 、食べないんですか。 」
綴先輩の作ってくれた味噌汁を啜って、そう聞いてみた。目の前に先輩の分のご飯もあるのに、冷めてしまいそうなのに 頬杖をつきながら ういのことを見ていた。先輩は 、ういのご飯に目を向けながら
「 朝ご飯、誰かと食べるの久しぶりなんだ。 私、ずっと寂しかったみたいだね。 」
とても儚くて、脆い記憶だった。
今日は、先輩の夢を見たことを報告しに行こうと
3年生の教室を覗いた。先輩はいなかった。リュックが机の横に掛かってすら無かった。実は、昨日も一昨日も、その前の日も、先輩は学校に来ていなかった。他に3年生に知り合いはいないため、先生に聞いてみることにした。職員室で先生を呼ぶと、快く時間を割いてくれた。
「 綴先輩 って、インフルエンザとかで 病欠なんですか。 」
先生は 足元に視線を落とすと、優しく口角を上げて、 顔を上げた。作り笑顔だった。
「 僕にも分からない。でも、来週にはきっと来てくれるよ。 」
そうですか 、と一礼すると先生は職員室に戻っていった。先生は、本当に知らないのだろうか。少なくともインフルエンザなどの流行病では無いことが分かる。病欠であれば担任の先生には伝わるはずだ。人が学校を休んでいるだけなのに、心が溶けていく感覚を覚えた。
家に帰ってから、ずっと何か違和感があった。もう空は赤黒く染まっているのに、妹が家にいない。いつもなら、部屋で遊んでいたり、お母さんの傍にいたりするのに。お父さんとどこかに行っているのだろうか。こんな時間に?それに、お父さんはいつも8時くらいに家に帰ってくるのに、今日は やけに早くないだろうか。夕食のときに、お母さんに聞くことにした。
お母さんは 、手を止めずにご飯を箸を進めながら ういの呼びかけに答えた。お父さんも既に帰ってきており、3人で食卓を囲んだ。
「 … るいってさ、どこにいるの。 」
「 どこにいるんだろうね。 」
冷たい空気が流れた。いや、どういうこと?昨日まで家にいたはずだ。おかしい。荒波がういを飲み込もうとしているが、両親の異常さについていけず何も言えなかった。無言で席を立つと、歯磨きもしないまま自室に向かった。はやく眠りについて、忘れたかった。
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