第19話
綴先輩は、台所で入れてきた水を ういにくれた。こんな気遣いまで できるなんて、本当に人として尊敬するところがある。二口飲んで低い机の上に置くと、先輩は口を開いた。
「 今日は もう遅いし寝ようか。 」
時計の短針は もう2を指していた。先輩は すでに布団の中に入っており、Tシャツの首元を掴んでパタパタし、涼を取っていた。遠慮している素振りを見せながら、恐る恐る同じ布団の中に入ってみた。
「 ね、意外と いけるでしょ? 狭い? 」
「 狭くないです。ありがとうございます。 」
先輩は、立ち上がって電気を消した。今日は かなり疲れたのにも関わらず、目が冴えきっていた。左にいる先輩を横目で見てみる。もう目を閉じていた。何だか置いていかれた気がして、ういも早く眠りたかった。
きゅっと目を瞑っていると、名前を呼ばれた。
「 晴れの日と雨の日 、どっちが好き? 」
急な話題に驚いたが、修学旅行の夜のような雰囲気につい乗せられてしまった。
「 ういは 雨の日の方が好きです。 」
「 そうなんだ。私は晴れの日が好きなんだ。 」
「 なんで 晴れが好きなんですか? 」
少しだけ間を空けてから先輩は答えた。
「 ういちゃんのことが よく見えるから。 」
ふふ と空気を含んだ声を出して、先輩は おやすみと口にした。本当に先輩は罪な人だ。おやすみなさい と返して、再び目を瞑った。ういは 夢の一つも見ない深い眠りに落ちていた。
ういは、誰かの足音で目が覚めた。もう窓から光がさしていて とても眩しい。隣にいたはずの先輩は もう起きているようで、部屋のドアが空きっぱなしだった。布団を整えると、台所に行くことにした。台所に近付くにつれて いい香りが強くなっていった。
「 あ、おはよ。朝ご飯 作ったから食べて帰って 。 」
エプロンをつけた先輩も可愛い…。へへへ と声が出ていたことにも気付かないまま、ういは椅子に座った。
「 親御さんには 朝ご飯食べさせていいか聞いといたから、遠慮なく食べちゃって ~ 。 」
先輩は 親指を立ててグッドマークを つくった 。昨日の夜の、布団の中で話した時の大人しさは嘘のようで 今日の先輩は眩しかった。
ういが 雨の日を好きになったのは、先輩がより一層 輝いて見えるようになったからだった。
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