第15話

「 さ 、 特等席に到着 ~~ 。 」

 綴先輩は 立ち止まると 、ふわりと回転して ういの方を見た。人通りの無い場所で、さっきまで耳元で聞こえていた大きな音が 小さく聞こえる。

「 りんご飴 、食べてもいいですか? 」

 ういは 林檎が大きすぎて頼り甲斐のない割り箸を片手で持っていたため、正直 早く食べたくて しかたがなかった。

「 全部食べちゃっていいよ。 」

「 でも 一緒に食べた方が美味し… 、  」

 口を噤んだ。もしかしたら、ういに気を遣っているのかもしれない。綴先輩は、甘いものが苦手なのかもしれない。よく考えれば、この 2、3ヶ月で 結構 話せるようになったけれど、先輩の好きな食べ物すらまだ知らない。手に飴が零れてきそうだったので、とりあえず一口 かじった。溶けていたから歯をあまり立てずに食べられた。食べているうちに 口角へと甘いよだれが流れていく。手の甲で拭おうとした時 先輩が あ、と声を出した。

「 … 花火。 」

 すぐに ういも顔ごと前に向けた。見晴らしの良い場所だから すぐに視界に入ると思ったが、花火が夜空に登っていく様子でさえも見れない。じっと空を見つめていると、突然 視界の左側から 先輩が現れた。と思えば、唇に柔らかい感触が伝わった。まさか。

「 美味しいね。 」

 はじめて口付けをされた。綴先輩は 舌で 唇を舐めると、目を細めて にぱ と笑った。空が一気に明るくなった。こんなに胸がドキドキするのは、きっと急に花火の大きな音が聞こえたからだろう。また、先輩は口を開く。口が動き始めた直後は、花火の音と重なって上手く聞こえなかったが、口がパクパク動いていることは分かった。

「 … ういちゃんと花火 、見れて良かった。 」

 先輩のこちらを見る目は、雨に濡れて輝く葉のように、美しかった。ういは、綴 想 のことが大好きだ。そう思った。自分の首筋に伝う汗が、じゅわ っと弾けそうだった。

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