第14話

「 ぇ 、そんなこと 誰に言われたっけ …。 」

 目を伏せながら記憶を思い返そうとしたが、 どんなに頑張っても綴先輩との会話しか思い出せなかった。ういは無意識に ごめんなさい と口に出していたらしく、先輩は ううん と首を振った。

「 いいよ 、私の方こそ変な話 してごめん。

  それよりも ういちゃんが無事で何より。 」

 いつの間にか、普段通りの優しい先輩の雰囲気に戻っていた。ういは 先輩の膝から立ち上がり、下駄をカラン と鳴らして整えた。そして、先輩をベンチから立たせるために手をぎゅっと握る。

「 先輩 、はやく行きましょ 。 」

綴先輩は 手を握り返して立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。鳥居をくぐり抜けると 、屋台が両端にズラーっと並んでいた。

「 ういちゃん 何食べる~? 」

「 うーん 、りんご飴 食べたいです ! 」

 先輩は 毎年夏祭りに来ているのか 、迷うことなくういの手を引いて誘導してくれる。歩いている途中、何回か男女で仲良さそうに屋台をまわっている人たちを見た。今は ういたちも カップル のように見られているのかもしれない なんて考えているうちに、りんご飴を売っている屋台に着いた。

「 あれ 、想ちゃんやないの ~ 。今年は彼女と一緒なん? 」

 屋台の向こう側でパイプ椅子に座る女性が、先輩に話しかけた。知り合いなのだろうか、かなり親密な関係に思える。というか、彼女って ういのこと…?!先輩の顔を見つめてみる 。宙に吊られている提灯ちょうちんのせいか、顔がいつもより赤みがかっているように見える。

「 ん~ 涼風すずかぜさんには内緒。あ、りんご飴大きいのひとつ頂戴。 」

 先輩は 、空いている方の手でショルダーバックを漁り、財布を出した。

「 あ 、うい 自分で払いますよ。 」

素直に奢ってもらっても良かったが、さすがに ういの良心が許さない。ういも空いている手で 手さげ袋から小銭入れを取り出そうとする。それを見かねた『涼風さん』と呼ばれる女性が

「 ほな これあげるわ。 仲良く食べや。 」

と 、並んでいるりんご飴の中でも一番大きいものをういに渡してくれた。そういえば、この屋台を経営している 涼風さん はあの 関西弁イケメン と呼ばれていた人の身内のようだ。この村に 涼風という苗字は珍しいため、きっと身内だろう。

 綴先輩は、涼風さんに手を振ると ういの方に顔を向けて

「 そろそろ 花火が始まるから、特等席まで歩こうか。 」

と 、微笑みかけてくれた。

 さっきよりも、綴先輩の 手を握る力が強い気がした。真夏の熱風のせいか、りんご飴はもう溶け始めていた。

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