第13話
今日は 、綴先輩と夏祭りに行く日だ 。今は午後の5時で、お母さんに浴衣を着せてもらっている。妹には ういが出掛けてから着付けをするらしい。
引っ越す前の土地でも夏祭りに行ったことはあるが、こんなに気合いを入れるのは初めてだった。肩まで伸びた髪は いつもならば下ろしたままだが 、今日だけは低い位置で ふたつくくり にしてみた。着付けしてもらっている間に、口角を上げる練習も たくさんした。少しでも 自分のことを気にしてほしかった。
待ち合わせ時間まで、残り20分をきったときに 家を出た。夏祭りは、綴先輩と訪れたあの鳥居付近で開催されるらしく、ういにとっては思い出のある場所であるため 心が踊った。
履き慣れない下駄をカランカランと鳴らしながら道を歩いていると、遠くの方に鳥居が見え、浴衣を着ている村人たちも ちらほら見え始めた。6時まで、あと5分。思ったよりも浴衣では歩きにくかったため、予定よりも遅くなってしまいそうだ。先輩は真面目で段取りよいため、もう先に着いているだろう。せっかくの『デート』で先輩を待たせるなんて…。既に鳥居の奥は賑わっているように見える。先輩はあの人混みの中にいるに違いない、と目を凝らしながら歩いていると、後ろから自転車のベルが聞こえた。避けるために左足の重たい下駄を右足に寄せようとした。が、足がもつれてしまった。さっきまで道の横を流れていた川が視界に入る。ああ、せっかくお母さんが縫ってくれた浴衣なのに ────
近くから、たくさんの人の声が聞こえる。幼い子のはしゃぐ声。女性の笑い声。男性の話し声。猫の鳴き声…。徐々に記憶が戻ってきた。そうだ、ういは 先輩を探している間に 川に落ちそうになったんだった。あれ?なんだか、額あたりに生ぬるい風を感じる。
「 大丈夫 ? 」
声をかけられて、反射的に目を開けた。綴先輩だった。ういは 先輩の膝の上で横向きに座っており、先輩の長い腕に包まれていた。浴衣は濡れていなかった。
「 ぇぇ … ? 」
口をパクパクさせたものの、質問したいことが多すぎるせいで言葉が上手く出てこない。先輩は ういの輪郭をなぞるように頬を撫でた。
「 ねえ 、ういちゃん。後ろも気をつけて って、
この前 教えてもらったんじゃなかったの? 」
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