第10話

「 …… 食べてくれませんか 。 」


 自分でも何故こんなことを言ってしまったのか、分からなかった。絶対引かれた。もう先輩の顔を見れない。明日からどんな顔をしたら良いのだろう。ういは、恥ずかしさと後悔で顔を背けた。先輩は、何も言わずに手首を掴んで 指先に口をつけた。柔らかくて、少し熱い唇の感触が伝わる。

「 指先へのキスには 『 賞賛 』 って意味があるらしいよ。 」

 なんで、そんな事を今言うのだろう。 先輩はこんな はしたない後輩の どんなところを賞賛しているのだろう。いや、もしかしたら、こういう事は みんなにも しているのかもしれない。

「 …そういうの 、勘違いしちゃうので辞めた方がいいですよ。 」

頬があたたかくなる。一度 先輩の口に入った指で、お箸を上手に持つことは もうできなかった。


 あの後、先輩は 何もなかったかのように 再びお弁当を食べ始めていた。5時間目の授業を受けている最中だが、ういは教科書を読むフリをしながら ずっとさっきの時間のことを思い返している。指先に視線を向ける。先輩は、本当に罪な人だ。包容力があって、一瞬で人を虜にすることができる。先輩になら自分の事を もっと知ってもらいたい。 そう思うと同時に、先輩の幼いところ 、儚いところ、全部 他の人には見せてほしくないと思った。

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