第9話
幼い頃に一度だけ、父から聞いたことがあった。『 唇が
「 ういちゃんはさ 、 美味しそうにご飯 食べるね。」
「 お母さんが毎日作ってくれるんです。 だからかも しれないです。 」
ういが作ると不味くて仕方がないけれど …。でも初めて言われた。そんなに幸せそうな顔をしていたのだろうか。先輩は、黙々と食べている。先輩といる時はできるだけ 考え事をしないようにしていたが、つい考えながら 箸を進めていた。
「 ぃちゃーん ……ういちゃん ? 」
ヤバい、先輩に呼ばれているのに 全然聞こえていなかった。数回瞬きをして、先輩の方を見る。先輩はういの顔を見ては 吹き出した。こんなふうに笑えるんだ。
「 もう 、顔に 何かついてますか? 」
控えめに頬を膨らませ、威嚇してみる。
「 うん 、ご飯粒 ついてるよ。 」
先輩は 笑いながらそう言うと、 先輩自身の頬を指差して二回つついた。真似るように ういも触る。全然見つからない。また顔が熱っぽくなるのを感じる。先輩は 柔らかく腕を掴んで ういの手を動かす。
あ 、あった 。指先で取り、辺りを見回して 拭き取るためのティッシュを探す。…あれ、ない。なんでこんな日に限って無いの?! さすがにこのまま食べるのは いくら先輩であっても引かれそうだ。目を泳がせている ういを見て、先輩はポケットを手に突っ込んでティッシュを出した。女子力まで高いんだこの先輩…。
「 どうする?貸してあげてもいいけど 、
───── いいの? 」
…いいのって 何に対してなんですか 一体。
主人公が 口に食べ残しを付けていたとき 、少女漫画なら かっこいい少年が食べてくれたりするらしい。母から借りた少女漫画で読んだことがある。ちらりと後輩の唇を見てみる。紅くて光沢のある唇。いや、何を期待しているんだ… と思う自分もいたが、気がついた頃にはもう遅かった。
「 ……… 食べてくれませんか 。 」
本当に 、私はどうかしている。
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