第8話

 授業が終わり、3時間目の休み時間に入った。話す相手もいないし、机に突っ伏すことにした。どうしてこんなに綴先輩のことばっかり考えてしまうのだろう。おかしくなってしまったのだろうか。クラスメイトの声が聞こえる。綴さん 、そう 、綴さん。え、綴先輩? 顔を上げてドアの方を確認した。いるんですけど……

「 ういちゃーーーん 」

 確かに ういの名前を呼んでいる。まさか本当に先輩から話しかけてくれるなんて。クラスメイトがういの事を見ているのは もう どうでもよくなり、急いで駆け寄った。


「 どうしたんですか、? 」

「 元気かな~ って。あ、あと今日のお昼は中庭で集合ね。 」

「 良いんですか 。えっ 、ういとご飯 、 食べてくれるんですか。 」

 先輩は ういの目を見て嬉しそうに微笑んで頷いた。なぜ急に微笑んだのかは 分からなかった。でも、綴先輩と話せてよかった 。


 待ちに待った 昼食の時間になった。誰かとお弁当を並べる日が来るとは思ってもいなかった。中庭には基本的に人が来ないので、先輩と二人きりになれる。

 中庭につくと、まだ誰もいなかった。まだ昼休みは始まったばかり だし、ベンチに座って待つことにした。このベンチは、先輩と並んで座るには少し狭いくらいだ。想像するだけで 熱っぽくなる。涼しい風が肌に触れて心地よいな と思っていると、綴先輩が 足音なく静かに 校舎の角から現れた。ういが 到着してから少し時間が経っていたが、綴先輩だから許してしまう。先輩は お弁当を右手に 、そしてレジャーシートを左手に持っていた。先輩は 賢い。ベンチが小さいことを知っていたんだ。

「 待たせてごめんね。さ、ピクニック始めよう。 」

 先輩は そう言うと、レジャーシートを広げてひらりと座った。ういも 食べようと風呂敷をほどく。

「 ういちゃんもこっち来てよ。 」

「 …… え ? 」

「 ほら早く、大きめのシートだから いけるよ。 」

「 いやでも 、さすがにそれは 、 」

 言い切る前に 先輩はその場で立ち上がって、手を差し伸べた。これは断れない。お弁当を片手に持ち、少し震える手を先輩の手の上に置く。先輩は 足を踏ん張って ういを立たせ、そのまま自分の方に近付けた。綴先輩は 小悪魔みたいな笑顔を浮かべていた。

「 じゃ じゃあお言葉に甘えます 。 」

 靴を脱いで、できるだけ端に座る。先輩は満足気にふふん と言うと、座ってお弁当を開け始めた。


 先輩のお弁当の中は ぐちゃぐちゃだった。

まるで、遠足で はしゃぎまわったせいで 崩れてしまったように。それすら愛おしかった。

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