第5話

「 さ、暗くなる前に帰ろうか。ういちゃんの家まで送っていくよ。 」

つづり先輩は猫を撫でていた手を止めて、ゆっくり立ち上がろうとした。うい は先輩の背中に触れていた手を離し、立ち上がる先輩をしゃがみながら見てみる。綴先輩は もう少し長く触れていたら解けてしまいそうなくらいに冷たかった。少し怖かった。

 風が吹いて まだあおい葉が舞い上がった。綴先輩のスカートがふわりと舞いそうになった。ういは 咄嗟に立ち上がる。反射神経だけは敏感で良かったと思った。

「 大丈夫ですよ、連れてきてくれて ありがとうございました。 」

軽く会釈をすると、先輩は またういの手を掴んで歩き始めた。行きの時とは違って、手のひらに温もりを感じる。

「 通学路までは一緒に帰ろう。女の子一人じゃ危ないからね。 」

「 先輩も女の子じゃないですか。 」

「 私はいいの 、どうなったとしても。 」

なぜここまで自分を 捨て身のような言い方で話すのだろう、と引っ掛かる部分はあった。まだまだ先輩のことは知らないから仕方がないと思うことにした。


 通学路とぶつかる十字路に着いた。綴先輩は真っ直ぐ道を進むらしい。ういは立ち止まって、一礼した。

先輩は、また明日 と手を振りながら歩いていってしまった。少しだけ先輩の後ろ姿を眺めてから、ういも 左を向いて歩き始めた。今日はいつもよりも感情が揺れ動いたからか、心身ともに疲れた。久しぶりに充実した一日を送ることができて、正直嬉しかった。しかし、今日は先輩と話すことができたが、社交辞令だったのかもしれない、と不安にも思った。なんとなく、明日が来てほしくない気がした。もしかしたら、もう話すことは無いのかもしれないと思ったから。


「 ただいま。遅くなっちゃった。 」

 家に着くと、玄関で妹が出迎えてくれた。いつもなら ういが帰ってきても部屋で遊んでいるのに珍しいな、と思いつつも無邪気に笑う妹の頭を撫でる。この村には保育園と呼ばれる建物もないので、毎日が退屈にならないのか 心配になることがたまにある。妹と居間に向かう途中、とても良い香りがした。今日の晩御飯は唐揚げらしい。妹はスキップして ういを追い抜き、先に行ってしまった。妹の背中は、綴先輩と少しだけ似ているように見えた気がした。

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