第4話
「 どこ行くんですか。 」
「 ん~ ナイショ。 」
こんな会話を何度か繰り返した。ういは 校門を出てから、話題を振らずに ただ無言で身を任せた。
もう知らない場所だ。通学路からは大きく逸れていて、狭い村なのに まだ知らない場所があるなんて不思議だと感じていた。うい たちが歩いている道の横を流れる川は、速度を緩めて歩くことを促すようにゆったりと葉を運んでいる。
「 着いた、来たことある? 此処。」
川に気を取られていたせいで 、突然目の前に現れた小さな鳥居に驚いた。猫、猫、猫、猫。鳥居のそばに置いてあるベンチの下や、長い丈の草の中、石畳の上、至るところに猫が居座っている。
「 すごい、猫がいっぱい いますね。 」
綴先輩は ういの手を離すと、猫に近付いて背中を撫でた。ういは 綴先輩の背中を見た。学校ではクールな印象を受けたけれど、無邪気で少し子供っぽい一面も持っているんだ。うい は猫を驚かさないようにそっとベンチに座った。空は眩しいほどに清々しくて、午前中の雨は嘘のようだった。
「 私の友達さ、みんな猫アレルギーなんだって。
でもさ、多分 良さを見つけられていないだけで、食わず嫌いみたいな事してるんだと 思うんだよね。」
先輩は猫を愛でながらそう言った。先輩の背中はどこか寂しそうにも見えてきた。
「 うい は 猫、好きですよ。 」
まだ出会って半日の後輩に 突然背中を摩られると、先輩はどんな感情になるのだろう。斜め後ろから、先輩を観察する。鼻筋が通っていて、顔の輪郭がはっきりしている。先輩が芸能界にでも入ったら、ういは確実に推すだろうな とぼんやり考えていた。先輩はしばらく無反応だったが、少しだけ瞬きの回数を増やしてから口を開いた。
「 ういちゃん って名前なんだ 、良い名前だね。 」
顔は猫の方に向けたまま、いつもの優しい声でそう言った。先輩の背中は、震えていた。
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