第7話 醜聞

 鈴花の目論見としては、まずまず成功と言えた。

 本来ならば、自分の正体を明かさずに盗撮し、本名とは別のアカウントを作って投稿するのがベストだった。

 だが、あのカラオケ店で三人がボックスから現れた瞬間、そんなことはどうでもよくなって、ただただ一心不乱に動画を撮り続けた。

 鈴花は一瞬のうちに、醜聞を暴露した当人がグループに居づらくなるであろうことを覚悟し、ただその際にはあわよくば二人を道連れにしてやろうと決心したのだった。

 鈴花によるインスタグラムへの投稿直後から、「Paradise Party」のファンのSNS上では大騒ぎになった。

 高校一年生の紀内葵が年上ギタリストと交際! 

 清楚キャラの東條みれいが泥酔して嘔吐!

 そんな話題がファンの間を席巻し、擁護や糾弾の声が入り乱れた。

 また、本人たちが何らの説明も発信しなかったことで、いわゆる炎上状態はいつまでも続くかに見えた。

 とはいえ、人の噂もなんとやら、騒乱は意外にも一週間ほどで急速に収束していった。

 女性ファンからは、「売り出し中のギタリストと付き合うなんて、葵は見る目がある、カッコいいじゃん」という意見。

 男性ファンからは、「酔い過ぎて吐いちゃうなんて、完璧なみれいらしくないけど、むしろ人間味があっていいじゃん」という意見。

 そんな声が大勢を制するようになったのである。

 紀内葵と東條みれいの二人にとって、ほとんどアイドルとしてのダメージはない、ということでこの件は決着した。

 一方の鈴花はグループの裏切者としてファンから非難され、運営会社からは暗に活動休止をほのめかされた。

 今回の件によって、自分がグループに居られなくなるであろうことは覚悟の上だったので、鈴花にためらいはなかった。

 三月の上旬、早瀬鈴花は、「Paradise Party」を「卒業」した。

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