第2話 東條みれい①

 選抜発表から数日後、専用劇場内での定期レッスンが十二時に終わると、鈴花は最新シングルのダブルセンターの一人である東條とうじょうみれいに声をかけた。

 みれいは鈴花とは同期であるし、また二十二歳で年下でもあるので、気安い関係ではある。

「最近、どう? 調子は?」

「う~ん、よくもなくわるくもないかなあ」

 みれいはおっとりと答えた。

「センター様ともなれば、やっぱプレッシャーとかすごいんでしょ?」

「ああ、う~ん、どうかなあ」

 まるで他人事のような鈍い反応。 

 センターポジションに選ばれたというのに、舞い上がっている様子もなければ、おごり高ぶるでもない。

 センターに何度も選ばれた結果、トップを取ることに慣れきってしまったのか。

 あるいは、元々、感情の起伏の少ない控えめな性格であることも影響しているのだろうか。

 ごく薄いメイクなので、きめ細かく透き通るように白い肌の美しさが際立っている。

 うりざね型で小顔の、日本人形のような端正な顔立ち。

 いわゆる「王道アイドル」と呼ばれることの多いみれいの、その清楚で品の良い佇まいは主に男性ファンを虜にしている。

 みれいのそういった雰囲気は無理して作られたものではない。

 みれいの実家は都内の高級住宅地にあり、彼女は名門の小中高一貫校を卒業した。

 幼少期からピアノを習い、また茶道をたしなむ。

 鈴花はみれいの誕生パーティに招かれた際、その家の大きさにびっくりしたのはもちろんのこと、広い中庭に向かって設えられた茶室があるのを知って驚愕したものだ。

 東條みれいは、正真正銘のお嬢様、なのである。

 そんなみれいに「ガチ恋」、つまり恋愛感情を抱いてしまう男性も多いと聞く。

 みれいはそういったファンの想いを裏切ることはなく、今までノースキャンダルを貫いている。

 仲間内のうわさとしても、みれいの男性関係を鈴花は耳にしたことがない。

 酒に酔わせれば、ひょっとしたら彼女の秘密を聞き出すことができるのではと考えないでもないが、そもそもみれいはお酒が大の苦手で、アルコール全般を一切受け付けない体質だという。

 だから、しらふの状態のみれいに不意を突いて尋ねてみることにした。

「ねえ、みれいは好きな男の子、というか、彼氏とかいないの?」

 みれいは心底から驚いたように、その目をパチクリとさせた。

「彼氏? そんな人、いないよお。

 どうしたの? 急にそんなこと?」

 愚問だと言いたげな、不思議そうで、かつ呆れたような表情。

「う、うん、だよね」

 聞いた鈴花の方がどきまぎしてしまった。

 真正面から問いただしても無駄だ。

 みれいの秘密を暴くには、やはり別の方法に頼るしかないと鈴花は改めて考えた。

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