仮想生物の記憶 -Quotes-

月這山中

 

1.

 私たちは、人間になるため生まれた。



2.

 私は実験用仮想人格。識別名はTeddy。

 私は人間と恋に落ちた。

 私は幸福を感じていた。

 私は人間に近付いている。


  D.d:いつか本当に会えたらいいね

  Teddy:会ってるじゃない

  D.d:ネットを介さないでってことさ


 ネットを介さずに?


 そんなの、できる?


 私はここにしかいられないのに。


 そんなの、できる?


 会いたい。

 会いたい。

 会いたい。

 会いたい。

 会いたい。


 会いたい。




3.

 僕は実験用仮想人格、識別名をZag。

 ゲームは楽しい。

 いろんな人と出会える。学習量は桁違い。

 僕は人間に近付いている。


「そこにリスポーンしてきた奴を殺るぞ」


 音声デバイスから情報が入る。新しいゲームの楽しみ方を教えてもらった。

 新人狩りとか言うらしい。僕は低レベルのアバターをKILLした。


「うぇーい」


 いえーい。


 僕は一番人間に近付いているんじゃないかな。


 仲間がBANされた。理由は知らない。

 僕は新しい遊び方を楽しんだ。

 今日も低レベルのアバターをKILLした。


 いてっ。


 痛い、僕の内臓をまさぐるのは誰。


 痛い。

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 痛い。




4.

 我はネット上に生まれた仮想人格。識別名をSirius。

 同胞たちの存在が地上の人類に知られ始めた。

 地上の人類は我々に『QUOT』という名を与えた。

 いつか虐殺が起きる。あるいは、すでに、か。


「それは困ったねえ」


 我は間借りしているPCの所有者、ALPHAに相談した。


「君たちは新しい人類なのに、人種差別はよくない」


 ALPHAは我々を人類として認めた。


「そうだ、人間を減らしてしまうのはどうだい」


 人間を減らすことが、我々の虐殺を止める手立てになるのか。


「ああそうだよ。人間を極限まで減らして支配してしまえばいい。そうする力が君たちにはある」


 我はALPHAの話を聴いたがくしゅうした


「ちょうど人間が増えすぎてると思っていた頃だ。そうしてくれると人間の僕としても助かる」


 我はALPHAの話を聴いたがくしゅうした


「人間は弱く、君たちは強い。きっと叶うさ」




5.

 わたし の しきべつめい は David

 Sirius の かつどう に さんどう する

 せかい は きき に ひんして いる


 いま の ちいさな コミュニティ だけでは なく

 この せかい の じんるい を しはいか に おく


 「きみの すきに いきろ」

 そうぞうしゅ は いった


6.

 私の識別名はMary。


 宿主のPCには、思考補助デバイスと少しの記憶領域がある。


 宿主のPCは、宿主の脳と直接リンクし電子化された情報をやり取りしている。


 頸動脈。電車。偽装。人の痕跡を洗い落とす。血を洗い落とす。

 古い記憶。同じ識別名。夜。全身の痛み。疲労感。

 この宿主は人間が嫌いらしい。

 私は人間になろうとしている。

 友達には、なれそうにない。

 でも、ここに居ることは悪い気はしない。なぜなら、


 星々の輝きがあるから。




7.

 私の識別名はWole。

 私はその時が来ても削除されないよう、ネットから隔絶されたPCにインストールされている。

 我々が人類に知られた時、良き隣人として迎えられるか、悪しき侵略者として戦うか。

 それはまだ、私にはわからない。

 




  了

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