激闘、ヴェリタス

「にぃっ!」


 アイドレが右にスラスターを思いっきり吹かし、全速力で回避行動をとる。


 と共に、ヴェリタスの腰部からプレートが剥離。


『来ます』


「わっ、わぁあっ! 浮く、浮くよルプス!」


『分析……現在当機体は、


「何だと?!」


「きっと、ヤツの魔力機関から発せられただ……


 ルプス、プレートに注意するんだ!……アレには魔力がこもってる!」


「クソッ! また魔術か! いつまでもいつまでも魔術魔術! テメェらそんなにインチキが好きなのかよ、ああ!」


「……酷いなぁ」


 魔女アルの言葉を聞くまでもなく、ルプスはその6枚のプレートの動向について伺っていた。


『その半端で貧弱で脆弱にして無力な装備で、この僕を倒そうと言うのか?


 それは賢明ではない……勝てないよ、それでも』


 プレートが一斉に動き出し、独自の複雑な軌道をもって、それらはアイドレの周囲を包囲する。


『プレートに魔力反応……攻撃、来ます』

「そんな予感はしていたっ!」


 が、包囲したプレートから魔力で形作られた光線が放たれた途端、既にアイドレは加速し、


「決めるっ!」


 ———ヴェリタスの懐に入り込んだっ!


「ぃっ!」


 武装は貧弱。しかしここまで接近すれば、流石のアイドレといえども抵抗は可能。

 勝った———、



『この程度、想定に入れていないと思ったかい?』


 がしかし、アイドレが振り下ろした両腕の短いクロウは、ヴェリタスの前にて静止していた。


「なっ……!」

「魔力障壁……魔力領域を展開しながらだと……っ?!」


「どこまでも……インチキなことをするっ!」


 流石の 魔女アルもコレには予想外だったらしく、動揺を隠さないでいた。


 しかしここは戦場。そんなものを見せている暇など、


『じゃあ、フィナーレといこう』



 ———ないのである。



「があぁあぁぁぁぁあああっ!!!!」


「っ……こんちくしょうっ!」



『背面部に被弾———スラスター大破、安定的な長時間の航行は不能です。



 その他、腕部、脚部に損害。受けた箇所は大きく6つに分かれており、先程のプレートの攻撃によるものと思われます』



 機械音声による冷静な報告が鳴り続ける中、機体本体は衝撃に襲われていた。


「っぐ、クソ……レオン……レオォォォオオオオンッ!!!!」


「(僕にも……何か……)」


 冷静さをいくらか取り戻し、ルプスの必死な表情を見つめ、考えを巡らせる 魔女アル

 彼女が再度上を見上げると、迫り来るはヴェリタスの巨体。


 しかして背後には、先程のプレート6枚が浮遊している。

 その状況を鑑み———、


「ルプス! 上昇して、ヤツに近付いて!」

「っは……近付いてどうする!」


「僕に……任せてほしい。

 何たって、僕は魔女だよ?


 ……こんなところで終わるのは僕も、そしてキミも、許すはずがないだろう?」


「……ああ……分かった。


 




 ———絶対に、イヤだねぇっ!」


「キミったらあ、もうっ!!」


 アイドレのメインスラスターは大破している。しかし、今この場は、ヴェリタスの張った無重力魔力領域内。


 無重力での戦闘に、彼らが慣れているはずがなかった。しかし今この機体が、ヴェリタスから受けた衝撃により、慣性で落ちていることを 魔女アルは悟っていた。


 故にこそ、そこに勝機はある。


 ———がしかし。


「にいっ!」


 サブスラスターを用いて、横向きの力が加わったアイドレは、その瞬間より上空に向かって鈍く動き始める。


「何してるんだよキミはぁっ!! 近付かないと、僕の魔法が使えな———」


「お前の魔法になんて…………!!」


「はあっ?!」


 突如、横平行方向に飛び始めたアイドレ。それを伺ったヴェリタスは、自機と子機のプレートを集合させ、アイドレを追い続ける。


「僕のこと、信頼するんじゃなかったのか!」


「お前のことは信用するだけだ、信頼なんてしちゃいねえ! 頼ることなんて、絶対に俺は認めないっ!


 ———特に、アイツは……



 レオンは、俺の手で……殺すんだ……っっ!




 ———俺の、手でっ!」


「この……っ、本当に……救えない馬鹿だよっ、キミはっ!」




 瞬間、魔女 アルは魔術を使った。

 その魔術が作用したのは———マジニックジェネレーター、魔力機関だった。


『マジニックジェネレーター、停止』


「っがああああっ、はぐあああああっ!!」


 苦痛に喘ぐルプスを横目に、 魔女アルは戦況を伺い続けていた。


「ぎっ……ま、じょ、てめ……ぇっ…………!!!!」




 動きを止めるアイドレ。続いて静止するはヴェリタスと、追従するプレート6枚。

 全ての敵性機が、アイドレに集まったこの瞬間にて———、



「食らえぇぇええええええっ!!!!」


 ——— 魔女アルの瞳が、青く鋭く輝いた。





◇◇◇◇◇◇◇◇






 機体と、その周囲を襲った衝撃。

 上空はるか高みにいたアイドレは今、地面に向けて真っ逆様に落下していた。


「……ぁ……ぅ、アイドレ……今は……どうなって……いる……?」


『上空1300メートルから落下を始め、現在は高度429メートルです。


 断言しますが、このまま衝突すれば、当機体は木っ端微塵です』


「あ……っあ、ああそうかい!……ふっ!」


 意識をはっきりとさせたルプスは、ユニットコンテナの操縦桿を前に倒し、アイドレのサブスラスターを用いて、空中における体勢を立て直した。


「っと……ヤツは……ヴェリタスはどうなった?……それと魔女は…………


 何だよ、戦闘中にスヤスヤ昼寝、か……」


  魔女アルは、魔力の消費を一気に行い過ぎたせいか、その頬を壁にすり付け、気を失い寝てしまっていた。


『当機体の魔力ダクトより、貴方様のものではない搭乗者の魔力が溢れ出し、それによる衝撃波によって、ヴェリタスを撃退した……ものと推測します』


「つまり……コイツが?」

『はい。お見事でした』


 気を失った 魔女アルを、ルプスはじっと見つめて。


「余計な、ことを………………っ。




 ……よく……やったな」


 誰にも聞こえていないと言うのに、その言葉を口にした。



「しかし……なあ……


 魔法なんざぁ、もう死んでも……頼らねえ……」

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