ST-V-AACIC01: VeRITAS・REASON

「ちくしょう……敵だってのか、こんな時に!

 おい、何なんだよアイツは! 魔女! お前は何か知らないのか?!」


「ヴェリタス……っ、っふ、ふ……っ!」


 が、ルプスの呼びかけに応じることはなく、魔女はどこか嫌がるように、その首を横に振り続けているだけだった。


「クソッ……戦闘モードには移行しているな……


 どこから来る……おい魔女、本当に何も知らないってのか!」


『敵機体名、ヴェリタス・レーゾン。型式番号、ST-V-AACIC01。当機アイドレ・レッヒャーとは姉妹機に当たる、魔術世界開発主導のサイドツーです』


 ありがたいことにルプスの望みに関しては、アイドレに積まれていた人工知能が全て解説してくれた。


「そうかよ……っ、見えた……!」


 今まさに登り来る朝日。

 その太陽を背に隠れるようにして現れたのは、細身のサイドツー……だったが。


「姉妹機……つったか、お前……


 アレのどこが姉妹機だ! ラヴエルフレームは一切無し、完全にワンオフ機の類じゃねぇか!」


 ———アイドレには、汎用性を重視し、四肢の換装などができるのが特徴でもある『サイドツー・ラヴエル』と言う種類のサイドツーが元になったフレームがあった。


 がしかし、姉妹機と謳われた当のヴェリタスには、そのようなものは微塵も見当たらなかった。


 辛うじて似ている箇所と言えば、機体に走る光り輝くいくつもの線と、頭部の形状だけである。


 それ以外は———、


「魔女! おい! しっかりしろ、ただでさえ武装が少ないって言うのに、お前が寝ててどうするんだよ!」


「嫌だ……やめてくれ、もう戻りたくない……!!」


「この……っ!」


 それ以外、相手となるヴェリタスは全てが違っていた。

 黒を基調とし、サブカラーに加えられた赤色。機体色も違えば、そのフォルムも無論違う。


 それだけじゃない。ヤツのシルエットをより巨大にしている、腰部から連結された左右3基の縦長プレート。


 既存のサイドツーのどれとも違うその姿は、余計にその機体の異質さを加速させていた———。


『あーーー、あー、聞こえているかな、そこの機体。


 僕は———当機体は、ヴェリタス。現実のその覇者の名において、『刻の律者』たる姫君を貰い受けに来た』


 語りかけて来たのは、その機体のパイロット———と思しき男の声。



「お前…………っ、お前、まさか……まさかぁっ!」


 が、その声に対し———あのルプスが、珍しく本気で声を荒げたのだ。

 そうだ、今までのようなノリで怒るだなどと、そんなものではない。


 この時こそ、本気だったのだ。


『さ、返してもらうよ。姫君———いや、『アル・レイアース』。


 君がいないと、あの『刻ノ神』は声を聞かせてくれないんだ』


「ふっ……んんっ!


 ……は……ぇ……」


 未だ首を振り続ける魔女が———アルと告げられたその少女が、ふとルプスの方を向いた時。

 その時のルプスの姿は、どうも鬼神の如き形相を覗かせていたという。


『……大人しく渡せば、その命だけで許してやろうと思うのだが、どうだね?』


「そうかい……俺はお前のことを許す気はないぞ、レオンッ!!」


 次の瞬間、既にアイドレは飛び出ていた。

 真っ先に攻撃を仕掛けたアイドレだったが、しかしその攻撃は軽くかわされてしまう。


「レオンッ!……聞こえているのなら返事をしろ、なぜお前はそれに乗っている!」


『敵対、と見做していいかな、コレは。


 分かった。なら、ヴェリタスの全能を用いて、君を排除するよ。


 何せアイドレ、君は邪魔だ。この世界に、覇者を名乗る者は2つといらない。


 だからそうさね、消えてもらおう』


 ヴェリタスが両腕を広げた瞬間、そこから広がったのは謎の透明な膜。

 それらは球体状に広がりを見せ、アイドレもその最中に飲み込まれていった。


『敵、戦闘モードに入っています。

 現在のアイドレの武装は、両腕のクロウのみです』


「ああ、それがどうした?!」


『勝てる見込みは、少ないです』


「だあってろ! んなの分かってんだよ!


 ———でも、勝たなきゃならねえ……アイツには……」


 ルプスの瞳に映っていたのは、過去の情景だった。


「アイツには……ぁっ!」


『退避を、推奨します』


「———俺が殺すぅっ!!!!」

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