(この女と一緒に)依頼

◇◇◇◇◇◇◇◇


「帰ったぞ、ルプス」


「……」


 ルプスは退屈だった。この魔女が帰ってくるまで、ずっとアイドレに乗って1人でいると言うのがどれだけ退屈か———。


「聞いてるのか? 帰ったぞ〜、ル〜プス〜」


「言われなくても聞こえている。

 ……退屈だ、さっさと依頼を見せろ。サイドツーを動かしてないと、退屈で死にそうだ」


 軽快なリズムで床を踏み、そのままアイドレのユニットコンテナへと跳び上がった魔女。

 彼女が胸に抱いていた紙は、3枚だった。


「どれ、どんな依頼か見せてみろ」

「はいこれ。多分、ルプスに合ってるものを選んできたつもりだよ?……感だけど」


 ルプスは魔女の持ってきた依頼を見つめる……が、徐々にその顔つきは険しいものへ……と二転三転してゆく。


「…………なんだ、これは?」

「だから、僕が選んできた、ルプスに合ってそうな依頼さ! 1つ目が———」


「———鉱石採取ってどう言うことだよ!!!!!!」


 

 ……魔女が持ってきた依頼は3つ。

 1つが鉱石採取の手伝い。もう2つが魔物の殲滅、一掃。


「え、いや、ルプスが喜びそうなものを感で———」

「感だとしてもこれはおかしいだろ! なあ! 何だよ採取依頼って!!」


「あ……はは、僕、間違えた……かな?」


「大間違いだよ、クソッ!


 ……これだから、他人は信用ならないんだ……」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……それでぇ、今からどこに向かえばいいって?!」


「あ……あの、そのまま東に17キロ……だって……さ……」


 ……そんなこんなで、アイドレは駆り出された。……こんなくだらない、ただの鉱石採取の手伝いなんぞに。


 事実今まで退屈していたルプスは、更にその機嫌を悪くしてしまった。どうやら彼は戦い足りないようだが、そんなこと知る由もない魔女は少し落ち込んでいた。


「……大体なあ、何で俺があの場にいたのか、お前は知ってるのか?」


「……知らない……ごめん……」


「俺はあの場に依頼を受けて来てたんだよ。……魔術世界のサイドツー群を殲滅し、採掘場を占拠しろ———そんな依頼がな。


 ……そも、俺は傭兵だ」


「……ごめん……」


 魔女はガラにもなく拗ねていた。オマケに目にはちょっとした涙まで浮かべている。メンタルがあまりにも弱すぎるのである。



「アレか、例の鉱山って?」


 アイドレを通してルプスが見下ろしたのは、森林地帯に連なってできた、少し標高が高めの山だった。


 その麓にはいかにもと言わんばかりの坑道があり、今でも既に鉱石をトロッコで持ち出していた。


「……なあアレ、サイドツーで入れるのか?」

「多分……入れる。

 依頼受付時には……入れる、って……」


「はあ……らしくないな」


 らしくない、とは、今の魔女のすぼみ具合に向けての発言だった。


「そうかよ……僕だって拗ねる時は拗ねるんだよ、全く……」


「まあいい。さ、降りるぞ。一仕事といこう。


 どんな依頼だろうと、まあ受けた依頼はそうだしな。どんな形であろうとやらねばならない、それが俺の流儀だ」


「はあ…………そうなのか?」


「そうなんだよ! 全く……っ?!」


 今まさにアイドレが降下体制に入ったその時、そのディスプレイが赤い表示に染まりきる。


「なっ……どうした?! アイドレ!」



『共鳴反応 です。




 ヴェリタス・レーゾン、来ます』


 ヴェリタス・レーゾン。その聞き覚えのない名前に、ルプスはただ困惑してばかりだったが。


「まさか……ヴェリタス……もうバレたと言うのか、この機体が?!」


 が一方、魔女はその存在に———恐怖を感じていた。


『反応は、敵性と思われます。


 コンバット・オープン戦闘システム起動。搭乗者の意思に関係なく、戦闘モードへ移行します』


 

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