誰にも内緒で おでかけなのよ

◆◆◆◆◆◆◆◆


 ———翌朝。


「だから……っ、いつまで寝ているんだよ、お前はっっっっ!!!!」


 時刻は朝10時40分。なお、魔女は起きてはいなかった。


「おい! おい!! もうそろそろ起きろよ!! もうこっちは呼びかけて1時間だぞ!! おい!!」


 ルプスは色々あったのでアイドレに乗ったまま動けない状態。なので、魔女の元に直接行って起こす、だなんてことはできやしないのだ。


「……ダメか……

 やはり他人に任せるとロクなことがない……」


 とはいえ今は他人に任せるしかないルプス。この状況にうんざりである。


「おい……魔女! 起きろよ!」

「呼んだ?」


 柱からひょこっと、魔女がその顔を表した。


「ずっと呼んでたんだよこっちは!!!!!!


 ……っふう、やっと起きたか、お前は」


「今は……何時だい? 確か僕は6時に一度起きて……その後……




 ……10…………時…………だと……?!」


 おまけに魔女の髪はぼさぼさだった。寝癖だってついていた。妙なアホ毛が2、3本、頭の上から飛び出している。いかに前日の寝相が悪かったかが伺えるものだ。


「……ちっ、違うぞ!……こっちは計算の上でこうしたまでであって———」

「ならば6時の時にそのまま起きていてほしかったな」


「それは……あの……まだ寝たかったという僕の個人的な私情を交えた計算の上でそうなったことで……」


「アホか……


 まあいい。とりあえず、フードでも何でも着て、さっさとギルドブッシュにまで行って来い。


 依頼の受け方、または依頼内容は……お前に任せる」


「……んっ、ふふん。この僕が、キミに一番似合う依頼を、3つくらい選んで来てあげようとも!」



 ———一番、と言っているのに、3つ選んでくるという矛盾に対して、ルプスはあえて突っ込まずにいてあげた。




◇◇◇◇◇◇◇◇





「空が……青い……

 不思議だな……見たかったはずなのに、こうも呆気なく……かあ……」


 何やら意味深なことを呟きながら、魔女はその道を歩き続ける。


 どうやら魔女にとってこの光景は、どうもかけがえのないものであったらしい。その理由は、今や誰にも分からないが。




「さて……地図だと……ここかな」


 西大陸西部にある村、ギルドブッシュ。

 ルプスの家より歩いて約15分、魔女はフードを被ったままここに来ていた。


 村は活発だった。依頼を受けようとする冒険者———勇者やサイドツー傭兵で溢れてもいれば、街中に開かれた売店もその賑わいを見せている。


 そんな中においても、やはり依頼と言うのはこの町の象徴でもあった。


「いくら僕だって……知ってはいるんだぞ……」


 サイドツー適正はなく、魔術しか扱えない冒険者、またの名を勇者。そんな勇者であろうが、サイドツー乗りであろうが、一堂に会するのがこの依頼掲示板だ。


 依頼を受けに来た者は、ここで依頼を受けるか、魔力による通信で依頼を受ける。


 最近は傭兵稼業が発達してきたおかげで通信依頼の方が多くはなったが、それでもこの掲示板に訪れる人は多いのである。


「ほえ〜……討伐依頼……あたり、ルプスは喜ぶんだろうか」


 掲示板に貼られた依頼をジッと見つめる魔女。そんな中、彼女が手に取った依頼の紙は3つであった。


「……これに……するか……」


 依頼掲示板から希望する依頼の紙を取った後は、ギルドブッシュの中心に位置するギルドセンターなる場所に、その紙を持っていかないといけないと言う。


 もちろんそこを訪れた魔女だったが、魔女を待っていたのはギルドセンターの受付嬢だった。


「あの」

「……あ」


 忙しそうに後ろを向いて仕事をしていた受付嬢だが、この時に限っては魔女に気付くや、すぐにその態勢を立て直した。


「……見ない顔ですね?」

「あ……の、依頼……受けに……っ来て……」


「あ、ああ、依頼ですね! はい!

 こちらギルドセンターです、登録名は何でしょうか?」


「とう……ろく…………??」


「はい……もしや、まだ冒険者登録がお済みではありませんか?」


「あ……っう、そうかもです……」


 その通りであった。

 ルプスの前の名義———それは本人の名前と何ら変わりのないものだったが、それは先日の依頼にて死亡判定が下され、欠番となったものだった。


 故に、その名前は使えない。だからこそ魔女は、昨日の時間を用いて新しい名義を考えてきたのだ。


「名義登録ですね! では、すぐに終わるのでお待ちくださいませ〜……」




 ———こうして、ルプス(と魔女)は、新しい名義を手に入れたのである。

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