第2章:現実の覇者
共生
「……俺の家は……焼かれてないな、ちゃんとまだある。
割れてもいないようだな、場所も。……ま、バレたところで俺は死人……余計な詮索も入らないろうさな……」
「キミの家?……そんなのどこにあるんだい?
家なんてどこにも……」
「そりゃあカモフラージュしてあるに決まってるだろ。
何せ傭兵だ。いつ命が狙われるか分からない、そうだろ?」
それを聞いた魔女はどこか、鈍い顔つきでルプスを見つめる。
「そうかな……
家と言ったら、絵本で見た赤レンガと煙突のある2階建てのものだって勝手に思ってたな……」
「……??」
その認識に唖然とするルプスであった。
———しかしそもそも、絵本などと言うものがルプスにはあまり馴染みがなかったのもある。
何せルプスは、この大陸より東にある大陸から、はるばるサイドツーに乗ってここまで来た身。あっちの大陸は戦争続きだったため、それは仕方のないことである。
「まあいい。とりあえず降りるぞ、流石にコイツはハンガーに入ってくれるよな……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『システム終了。オツカレサマデシタ』
「よし、何とかなったな」
ルプスの家。草原に囲まれた丘を改造して作った洞窟のような家である。
ハンガーは正面。ツタを用いてカモフラージュを行なってはいるものの、ことサイドツーの整備においては邪魔でしかないらしい。
「ここが……僕の家かあ!」
「俺の家だ」
「どっちにしろ、ここは僕の家だよ」
アイドレの胸部ユニットコンテナが開く。……と、その途端に魔女が転がり落ちた。
「じゃあ、家の中見回ってくるから!」
「おい待て!……ふざけたことを……っ!」
つられてルプスも転げ落ちる。
着地に成功したルプスが今にも走ろうと足に力を入れた、その瞬間だった。
「———っ?!」
いいや、力は入っていない。力が入らなかったのだ。
「な……に……ふっ……」
そのまま、腹の間からくる激痛に苛まれ、ルプスはその場にてかがみ込み、そして最後には寝そべってしまった。
「っぐ、あぐっ、あぎぐぃぃああぁぁあああっ!!!!」
「っルプスッ?!」
珍しく心配した魔女が観に来ると、そこには———苦悶の表情を浮かべたルプスが、地面を這いずり回っていた。
その身につけていたスーツは赤く発光した線を流し続けており、それもより一層異常感を際立たせていた。
「ダメじゃないか、何で勝手にアイドレを降りてるんだ!」
「いや……だって……っぐ、ぐぃ……乗る前は……こんなこと、なくって……ぐぁ……っ」
「この……馬鹿なやつっ!」
魔女は両手でルプスを引っ張ろうとするも、その重さに負けてしまっていた。
「そう言う時……こそ、魔法……使えよっ、ポンコツッ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふう、これでいいかな……っ!」
「俺としては……大変……よろしくないがな……」
再度アイドレのユニットコンテナに腰掛けたルプス。今まで幾度となく見続けてきたハンガーの壁は、この時に至っては酷くありがたい視界の一つとなっていた。
「とりあえず、キミはもうその子から降りないでくれよ。
下手に降りようものなら、本当に……」
「じゃあどうやって……依頼を……受けりゃいいんだよ……」
「どうやって、か…………
じゃあ、代わりに僕が行って———」
「アホか。お前を匿う為にこんなことしているんだろ」
「あぅ……」
魔女は間抜けである。
「まあだが、下手に正体を晒すのも良くない……となれば通信もやめた方がいい、か……
……おい、魔女」
「な、なんだい? この僕に何か、やってほしいことでもあるのかい?」
「そのまさかだ。
お前は変装しろ。それでギルドブッシュから依頼を受けて来い。
今のところ資金はまあまああるがな、1ヶ月は過ごせない。何よりお前が来たことによって更にめんどくさいことになってしまった。
だからだ、お前が変装して依頼を受け、俺とお前の2人でソレに赴く。それでいいだろ」
「ふ、ふん、ならばこの僕がやってあげようじゃないか!……それで、名前はどうするんだい?」
若干魔女はノっているようだ。ルプスとしては心底どうでも良かったが。
「前の名前をそのまま使うのもアレだ……
なら、そこはお前で考えろ」
「え、いいの?」
「勝手にしろと言っているんだ。分かったら早く寝ろ。……明日は、朝早くから依頼を受けに行ってもらうからな」
「もちろんそんなこと承知の上さ!……僕の早起きを舐めないでもらいたいね、最高で6時半起きだぞ、僕は!」
「あ〜はいはい、そうかよ。じゃあな、おやすみ」
「あ……
うん、おやすみ……」
———ちなみに、ルプスは依頼で3時半起きなどザラであったという。
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