死の駆け引き/執念のリセット
「…………お前は、信用してもいいのか」
「そんなの、キミが勝手に決めることさ。
まあ、信用しようがしなかろうが、僕には服従してもらうけどね」
「何だと……」
ルプスの体調は、もはや満足に会話できるほどに回復していた。
だがそれはそれとして、そのまま激しく動いてしまえば、しかしそれも危険な行為だった。
「さ、乗るなら乗るといい。無論、操縦はキミだ」
「お前が操縦するんじゃないのか」
「僕が操縦できるなら、こんな場所とっくに抜け出してるさ!
……本当に……そうしてるよ……」
その表情の曇りを、ルプスが見ることはかなわなかった。
「……断る」
「へ〜え?」
ルプスの出した答えがコレだった。
アイドレがどうとか、ソレ以前に、この魔女が信用ならない。それだけだった。
「お前は乗らない。俺1人でコレに乗って、脱出する。
『魔女』だと?……魔術なんてものぁな、ハナから信用できねえんだよ……インチキか、トリックか……あるいはその両方か!
そんなもんを扱う女ぁ?……チッ、信用できるわけねえだろ!」
「———いやあ、ソレはダメだね、僕も連れてってよ。一応、命の恩人だよ?」
「お前は信用しない。……できないんだよ」
「じゃ———」
そこから話すところで、ルプスは彼女は銃口を向けた。
「おっとぉ!」
語尾の発音が跳ねる。未だ、魔女は余裕を崩さずにいた。
「それ以上動いたら撃つ。
……俺がコイツに乗るんだ、お前は消えろ」
「消えろ、ねぇ……
……じゃあ消えようか?」
ルプスは魔女を睨みつける。それはもう、憎しみすらこもっているのではないかと言わんばかりの瞳で、ただ睨むばかり。
「怖いなぁ、消えるって言ったじゃないか」
がしかし、返す魔女の瞳は半目開きで、どこか小馬鹿にしたようなにやけ面を覗かせていた。
「やけに余裕そうだな、それにしては」
ルプスの予感は当たっていた。
「ま、そりゃあ……僕にだって交渉材料があるからね」
一触即発の状況下。ルプスはただ睨みつけるばかりで、しかしそれは『ソレを言ってみろ』という呼びかけにもなりえていた。
「さっき僕は、アイドレとキミを繋いだと言ったろう?
その言った通りさ。アイドレとキミは今、繋がっている。その媒介をしているのは僕だ」
「それがどうした」
銃を持つ腕が強くなる。引き金には既に、男の指がかけてあった。
アイドレとルプスを繋ぐ。それがどう言った意味を持つのかをルプスが知ることもなければ、魔術的な繋がり———などと言ったものを想像するにも、少しばかり知識が足りなかった。
「そこで、キミとアイドレを繋いだ理由さ。
致命傷を負ったキミは、僕だけの魔法じゃ完治しそうになかった…………
———だから、アイドレに治してもらうことにしたわけさ」
魔女が、その長い白髪を揺らし、アイドレ———と呼ばれる、バイザー姿の白いサイドツーを見上げた。
アイドレに治してもらう。妙な言い方だった。サイドツーに、治してもらうだなどと。
「ただまあ、アイドレに繋いでも、キミのその体じゃあ、完治には早くて2週間……遅くて1年くらいかかるだろう。
……ソレで、僕をアイドレに乗せない……その意味は分かったかい、ポンコツ傭兵さん?」
「……」
が、そのようなルプス自身をコケにするような挑発に、彼が乗るわけはなかった。
しかして、その意味が分かったわけでもなかった。
「なら、この僕が直々に教えてやるとしよう!
媒介としている僕がかなり離れれば、キミとアイドレを繋ぐモノがなくなる。
アイドレとキミが断たれれば、キミはたちまち……死んでしまうのさぁ!」
……ルプスの苛立ちは、高まっていくばかりだ。
「つまりね、キミは———アイドレから降りれば死ぬし、
……僕からかなり離れても死ぬんだよ、笑っちゃうけど」
「なっ…………?!」
ここでルプスは、ようやく自分の置かれている状況に気がついた。
どう足掻いても死ぬ。コレに乗って、信用の置けない『魔女』と共に逃げねば、死ぬ。
そう、このサイドツー———アイドレを動かすほか、ないと。
「クソ…………ッ!」
しかしソレが受け入れられず、ルプスは魔女に向けて発砲した。……いいや、正確には魔女にではなく、その側の床に向けてだ。
ルプス本人も薄々気付いていたのだ。気付くことは本人が許さなかったが、この女———魔女が、今自分の命を握っていると言うことに。
「……どうする?」
「……………乗れば……」
「ん〜?」
「乗れば、いいんだろ……クソッ!」
「いいね、懸命な判断だ」
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