ST-V-AACIC02 : IDOLe・RAECHER
「……乗るとは言ったさ。
だが、何でこんなものを着なきゃならない!」
アイドレに乗り込んだ2人。魔女がルプスに押し付けたのは、ブッカブカのスーツだった。
黒と白の模様があしらわれた、全身のスーツ。
「いいから、今の服と下着を脱いで早く着ろ。
……別に僕は、キミの股間でも乳首でも、何を見せられようと気にはしないさ」
「うるせえっ! んな言葉口にすんじゃねえっ!」
ルプスがそのスーツを見に纏った瞬間、魔女は人差し指だけをちょこんと差し出し、首元のボタンを押してみせた。
瞬間、スーツはルプスの体に密着。
「なっ?!」
同時に、スーツの大部分を占めていた黒い場所に、水色の直線が光となって流れ始めた。
「擬似魔力回路増設用、高機動リンク用スーツ……だっけな。
ちなみに、完治するまでにソレを外すと、ソレも死ぬ条件になるから気を付けてね」
「なっ……じゃあ排泄はどうしろと……!」
「垂れ流しだよ」
「ふざけたことを……!」
ふざけているのはこの会話の方である。さっさと起動させなければ、敵はすぐそばにいると言うのに。
「……ま、僕は助手席で堪能させてもらうとするよ。
サイドツー傭兵の力、見せてもらおうか……っ!」
「……そうか、勝手にしろ」
言い終わるとルプスは運転席に座り、両端の操縦桿に手をかける。
そしてソレを引いて、一言。
「スタートアップ、サイドツー・アイドレ———」
「アイドレ・レッヒャー。
ソレがこの子の名前だよ、傭兵さん」
「そうかよ。……スタートアップ、アイドレ・レッヒャー」
瞬間、ユニットコンテナのディスプレイに文字が浮かび上がる。
A.utonomous
A.irframe
C.ontrol-and
I.ndirect-thought
C.ontrol-integration
Operating
System
『アーシックOS、起動確認。現在セーフモード、スタンバイ。
オハヨウゴザイマス。通常モード、起動します』
「おい、魔女」
「ようやく僕を呼んでくれたか———」
「コレは何だ。アーシックって何なんだ」
しかしその呼びかけに対し、魔女は首をしかめるばかりだった。
「……わっかんない」
「この機体は、お前が持って来たんじゃないのか」
「そう、僕が持ってきた。……でも持ってきただけさ、操縦はしていない。……全部任せたんだよ、彼に。
だから、これからはキミに任せるんだよ、全部」
「クソ……結局俺か……!」
文句を垂れつつも、ルプスは機体の調整を進める。
「何より、キミには信頼がある」
「そうかよ……!」
何せいくらラヴエルモデルとは言え、専用の名すら与えられた特別仕様の機体。半量産機とは言えるものだろうが、未知数な箇所は未だ多かった。
最中、男は見つける。
「ST-V-AACIC02……
この機体の型番か……ラヴエルのソレとは違うくせして、ナンバリングがある……何物だ、コイツは……!」
「アレ、知らなかったの?」
「知らんっ!」
が、それっきりだった。
「よし———動けよ……
サイドツー・アイドレ・レッヒャー、出るぞ!」
『
瞬間、機体の光が灯り始める。
バイザーはその全てが発光するというわけではなく、中にあるツインアイのみが発光していた。
「視界良好……レーダーも生きている、マジニックジェネレーターも稼働は安定期か……
何でこんなもんに……頼らなきゃならないのか……っ!」
そうは言いつつ、ルプスはペダルを踏み、途端機体は前進した。
そして、そのまま……大穴の中心部より飛翔する。
「いいねえ、最高じゃないか、傭兵さん!」
「楽しんでんなよ……死ぬぞ!」
機体背面の小羽型スラスターを用いて、舞い上がったアイドレ。
大穴から顔を出したアイドレを待ち構えていたのは———、
「50機……もか……」
その場に押しかけていたのは、魔術世界の送り込んだサイドツー群。
それらの中には、ライブスと呼ばれる種類のサイドツーも存在していた。
「うっわ……流石に数多いなぁ、こりゃあ……
……で、いけるの?」
「ぉおしとりゃぁーっ!!」
ルプスの掛け声と共に、アイドレは両腕部の短刀を展開。
その展開もしつつ、まずは1機に接近し、ソレを瞬く間に両断してみせた。
『っ、敵襲ーーっ!!
敵機、回収目標のアーシックゼロツーですっ!』
「アーシック……?」
聞き覚えはあった。例のオペレーティング・システムの奇妙な名前だった。
その他にも———。
「深追いはするなよ、キミ!
目標はあくまで脱出だ、殲滅の必要はないからな! 分かったかっ?!」
「うるさい、お前は黙ってろ!」
進路を阻むラヴエル。その全てを、アイドレは軽々と両断してゆく。
「武装はコレしかないのか……貧相な!」
「あまりこの子のことを、悪く言わないでやってほしいなあ!」
———だが、武装がコレだけと言うのはあまりにも貧弱がすぎる!
「右!……来てるよっ!」
言われた通りに右を向いたルプス。迫り来ていたのは、3方向に分かれた有線式のクローだった。
「っ! 左からもっ?!」
「何だと!」
そう、いつの間にかアイドレは、両方向より迫り来るクローに囲まれていた。
「クソ…………ッ、翔べぇっ!」
そう命令して、反応したのは直後。
アイドレは高度を上げ、その小羽を空中にて展開し静止した。
———がしかし、クローの激突による破壊は叶わず。直下よりは未だに、2基のクローが迫り来ていた。
「たった2つでよくもまあっ!」
が、アイドレの能力は、ルプスの想像以上だった。迫るクローを翻弄し続け、幾度となく方向転換を行った———が。
「なっ……!」
しかし、今度は上下より迫る2つのクロー。
四方を挟まれれば、流石のアイドレと言えどどうすることもできず。
『マジニックジェネレーター、停止』
「っがああああああああっ!!!!」
それらクローの間にできた紫色の領域がアイドレを包んだ瞬間、ルプスは悲鳴を上げて喘ぎ散らした。
「ああっ! はあっ、はあっ、はあっ! はあっ!!……クソォッ!」
一瞬にて息が上がるルプス。アイドレからの供給が止まったことにより、身体症状が悪くなったのだ。
同時に、機体は完全に停止した。動力源でもあるマジニックジェネレーター———魔力機関が停止したのだから、当然。
「大変そうだね?」
「っ、っ、っ、っぎぃあ……っ!」
体のありとあらゆる筋を強張らせるその姿は、スーツ越しにくっきりと見えていた。
「はぁ…………しょうがない。
———この僕が、助けてやろうじゃないか!」
「なっ、おま———?!」
魔女の目の青がより色濃く光ったその瞬間、機体の周囲を水色の粒子が覆い———、
そしてソレらは、爆発———とも言えるような衝撃波を残し、霧散していった。
クローはそれに巻き込まれて破壊され、同時に……
『マジニックジェネレーター、再起動』
「はあっ!……っ、はぁ、っふ……っ!」
同時に、ルプスも蘇ったのだ。
「……振り切るぞ、捕まってろよ……魔女っ!」
「ああ、もちろんさ!」
そのままアイドレは全速力を出し、最大戦速で戦域を離脱していった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『戦闘終了。通常モードへ移行します』
ギルドブッシュ、周辺。
未だ、彼らは上空にいた。
「お前……さっきの技は、一体何なんだ……」
ルプスの疑問が、ユニットコンテナの中を満たす。
「技……って言うか、アレがキミの、心底大っっっっっ嫌いな『魔法』だよ。ま、僕の魔法は、ちょっとばかり常識はずれだけどね」
「…………やっぱり、何者なんだよ……お前は……」
戦闘の疲れからか、息も上がってしまったルプスは、苦し紛れにソレを聞く。
その返答が、コレだった。
「何者、って……
……僕は魔女だよ、傭兵さん」
———かくして、機巧傭兵と魔女の、共同生活が始まったのである。
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