第10話 牢獄

「あの…どうしてレクティアに?」

ノナミがサキナに向かって疑問形で問いかけた。

「リスポーン地点を固定するため。やられると最初に始めた所からスポーンするから移動がめんどくさいからね」


「なるほど…」

ノナミは何やら不思議な顔をしていたように見えた。


『レクティア』

起源の門から東に徒歩15分ほどに位置する街。最初の城下町とは真反対の街並みと景色である。おそらくヨーロッパの街を意識しているのだろう。白い建造物が多くレンガで造られた建物はまるでファンタジーの世界だ。

俺たち3人はサキナに案内され宿に着いた。サキナが言うにはここでリスポーンの設定が出来るという。

「あの。リスポーン地点の設定をしたいのですが…」

すると男性のNPCがこう答えた。


「申し訳ございません。こちらの宿は現在閉めさせていただいております」


「どういうこと。前はしっかり営業してたはず」


「どうやらあの話は本当だったようですね」

突然ノナミが話しを切り出した。


「何がだ?」

俺はノナミに向かって少し強く言った。


「私はこの世界でやられたことは1度もありませんが私のフレンドから聞きました。この世界でやられたら牢獄に監禁されます」

俺は理解が追いつかなかった。

「すまん。言ってる意味がよく分からないのだが」

サキナの話ではリスポーン地点を固定し、死んだらペナルティを受けて復活できるとの話だったが、とりあえず今はノナミから情報を聞き出さなければならない。


「たった今スクリーンショットを撮ったのでパーティの全体チャットに送りますね」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【ノナミ】

今どこにいるの?

【フウリ】

助けてくれ!牢屋に閉じ込められた!

【ノナミ】

スキル使って脱出できたりしない?

【フウリ】

オブジェクトスキルもオブジェクトアビリティも無効化されてある。それにMAPが真っ黒で自分がどこにいるのかも分からないし、ログアウトも出来ない。

【ノナミ】

なるほどチャットは普通にできるんだ。

【フウリ】

ああ。ただ通話はできないようになってる。

【ノナミ】

了解。情報提供ありがとう。

【フウリ】

絶対助けに来てくれよ。俺閉所恐怖症だからこの狭い空間しんどいんだよ…

【ノナミ】

助ける?なんのことかな?私はフレンドになっただけだし位置が分からない以上助けられないな〜。じゃあね。

【フウリ】

おい待て!騙したなお前!

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「私はオブジェクト・アビリティがサービス開始されてから数時間後に始めました。特に何も考えずに私は起源の門を出たあと真っ直ぐ歩きました。すると闘技場についたのです」


「たしかにMAPにしっかりと載ってるな」

俺はすみやかに確認をした。

「はい。そこは無法地帯でした。プレイヤーが乱闘を起こしていたのです。私は1人ずつ倒していきいつの間にか闘技場の番人になっていました。するとある1人の男がやってきたのです」


『あのノナミさんフレンドになっていただけませんか。あなたに勝てないのは理解しています。なので少しでもあなたの役に立ちたいんです』


「私は1つ疑問に思っていたことがありました。倒されたプレイヤーはどこに行ったのか。倒されたプレイヤーは私に恨みを持ちもう一度挑戦に来るかもしれません。しかし倒したプレイヤーをいままで1人も見かけませんでした」


『分かりました。フレンドは承諾します』


「そして私はフウリという男とフレンドになりました」


『フレンドになったということで契約成立ですね。では今すぐ死んで貰えませんか?』


『どういうことだ』


『あなたは私の役に立ちたい。そうおっしゃいましたよね?』


『ああ。言った。けどなんで死ななきゃ行けないんだよ』


『この世界で死んだらどこにリスポーンするか知りたいのです』


『普通に最初のスポーン地点に出るんじゃないのか』


『さあどうでしょう。あなたは死んだらリスポーンした時の状況を教えてください』


『え、ちょっとまっ』


『じゃあよろしくお願いしますね』


『グアッッッ!』


「と、まあ流れはこんな感じです」

ここまて淡々とノナミは説明をした。相手が役に立ちたいと言ったとはいえやっている事はただの外道だ。

「要約するとあなたは闘技場でプレイヤーをキルしレベルを稼いでいた。そしてあなたは気がついた。キルしたプレイヤーを1度も見かけないことを。そして話しかけて来た男をフレンド承諾をきっかけに利用した。だから私がリスポーンを固定するためにレクティアに行くという説明をした時不思議そうな顔をしていたってわけね」

サキナはノナミが言った内容を簡潔にまとめて言った。

「そこまで洞察力があるなんて…サキナさんあなた頭いいでしょ」

(それに関しては俺も気づいていたけどな)

とでも言いたかったがすぐに辞めた。


「そう?普通の考え方だと思うけど」


「まあサキナさんの言った通りよ」


「お前俺たちを利用しようして何か企んでいるわけじゃないだろうな。俺たちのパーティに入ってきたのは何故だ」

最初から行動は怪しいと思っていた。闘技場でプレイヤーを倒しまくってレベルをあげたことも闘技場でのフウリとのやり取りも嘘の可能性だってある。俺は何か裏があるに違いないと思った。

「さあどうでしょう。パーティのメンバー内では攻撃を与えることが出来ないのは知っていますよね?パーティリーダーはサキナさんなので自分から離脱して急に攻撃を仕掛けるなんてこともできませんから」


(なんなんだこいつは…何がしたい)


ノナミは意味深な言い方をし、不気味な笑みを浮かべていた。パーティに入れたのは間違っていたかもしれない。そう思った。何を考えているのか分からないのはとても怖いことである。人間には大抵表と裏が存在する。表と裏を使い分けることで相手を騙すことも容易に可能だ。このノナミという人物は警戒しておく必要がある。俺はそう決心した。

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