第7話 サキナの策略
「近くで見ると大きい門だな〜」
歴史を感じる木造の門はかなり年季が入っているように見えた。装飾も細かく施されている。遠くから見た時は小さかったのに実際目の前に来てみると想像以上に大きかった。遠近法だ。
「この門は起源の門って言うらしくて、起源の門をくぐってから10分間ダメージが無効化されるから、AIに時間を計らせとくといいかも。時間を把握するのは重要だからね」
無論俺のAI(猫のイヌ)はまだ寝ている。分からないことは全てAIに聞くのがセオリーだがこの状態じゃカカシでしかない。
(先にいろいろ聞いておくべきだったか…)
完全に失態だ。サキナがいなかったらどうなっていたのだろうか。あまり考えたくなかった。
「わかった。門をくぐったら計っておくよ」
俺は適当な事を言って流した。特に意味はないがとりあえずサキナには秘密にしておくことにしたのだ。
「じゃあ私、先くぐるよ」
サキナは起源の門をくぐり俺も後に続いた。道は3つに分岐していた。
「これどっちに行くんだ」
「右に行こう」
「なんでだ?」
「このゲームでまず最初にやることはリスポーン地点の設定。AIによるとやられたら私たちが最初にリスポーンしたところに出るみたいだからもう1回歩くのは面倒でしょ?だからここから1番近い『ルクティア』に行くの」
MAPを見ると右側にしっかり『ルクティア』と書いてある街があった。距離的に現在地から1番近い街だ。
「なんか任せっきりで悪いな」
歩きながら俺は言った。
「むしろ色々頼って欲しい。そのために完成品を先にプレイしてたようなものだと思うし」
「その時はどんなことをやってたの?」
「このゲームはプレイヤーを倒すことで経験値を得ることが出来るんだけど1人じゃレベルの上げようがない。だから正式に発売するまで少しでも効率化しようと思ってMAPの地形を理解したりどこに何があるのか把握したりとかしてた」
薄々気づいていたがサキナは予想以上にガチのゲーマーだった。さすが普段からゲームに触れていただけのことはある。
しばらく歩いていると道の両端に木が増え始めた。今まで開放感のある道だったナツヒはAIが寝ているためダメージの無効化時間が分からなかった。
「ナツヒ君。ちょっと今のうちに共有しておきたいことがあるんだけど」
「うん。何?」
「今私たちの左右には木が生えているでしょ」
「それがどうかしたのか?」
「他のプレイヤーが隠れている可能性があるかも」
唐突に言われて内心驚いた。あまり何も考えずついて行っていたからというのもあるだろう。
「その理由は?」
「起源の門から1番近いのは『レクティア』だから私たちと同じように行動する人は多いはず。だから両端の木に隠れて奇襲を仕掛ければ簡単にレベルを上げられる」
「じゃあ起源の門をでてからダメージの無効化が切れる前に『レクティア』まで走ってたら良かったんじゃないか?」
「いや、私は俊敏性があるけどナツヒ君はないでしょ?実は完成品の1人用サーバーで検証してたの。タイムを計って起源の門から走ったら『レクティア』に約9分30秒くらいで着いた。だから私だけギリギリ間に合うけどナツヒ君は絶対に間に合わない。つまりダメージの無効化を切らさずに街に入れるのは俊敏性を持ってるプレイヤー。もしくはオブジェクトスキルかオブジェクトアビリティで俊敏性の強化がもしもあったらって感じかな。AIはこのゲームのことならなんでも教えてくれるけど、他にどのようなスキルがあるかとかは教えてくれないから予測でしかないけど。逆に私だけ先に『レクティア』に行ったところで相手が2人以上だったら数的有利を取られるだけだからね」
俺はおもわず感心してしまった。1つのゲームに対する探究心が凄すぎる。もし自分が逆の立場だったとしてもここまでしていないだろう。
「なるほど。とりあえずプレイヤーが木に潜んでいる可能性を考慮するべきってことか」
「そうだね。もし仮にプレイヤーが潜んでいるとしたらダメージの無効化が切れる10分を超えた辺りにいると思う」
「時間を計ってたのはそのためか」
「そういうこと。ナツヒ君も時間計ってるでしょ?」
「あ…ごめん。時間計るの忘れてた…つい景色に夢中になっちゃって…」
俺は反射的に誰でもわかるような嘘をついた。全ての元凶はイヌのせいだ。イヌはまだぐっすり寝ている。
「大丈夫。私が10分になったら一応合図するから安心して」
ゲームになると現実世界の美都咲奈ではなくゲームのサキナになっている。まるで別人だ。普段よりクールで冷酷な印象を俺は感じ取っていた。
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