第24話
第二十四話
”第3章
鈴のような花が茎から離れて少年の足元に落ちそのままゴロゴロと暗がりの方へ転がっていく。暗闇は火傷を恐れる羽虫の群れのように鈴の明かりから逃げていく。鈴を捕まえようと手を伸ばすと少年は体のバランスを崩して前のめりに転んだ。少年の猫背が暗い痛みを転がる。少年が痛みにうずくまっていると今度は青白い光の方が少年に近づいてきた。月の呼び声みたいな美しい鈴音に誘われて少年が顔をあげると、そこには廃墟があった。支える役目を放棄した石柱の破れ目に鈴のような花がピッタリと嵌った。少年は相変わらず暗闇を背負っているような卑屈な猫背で鈴へと近づいていく。鈴の青白い光に近づくほど少年の背は軽くなっていった。そして、次の鈴音が鳴るころには少年の背はまっすぐに伸びている。鈴が放った音が廃墟の奥へと入っていった。少年はそれを追っていった。廃墟に入ってすぐの奥の壁に絵画が飾られている。額が斜めに傾いて所々煤けてはいるが美女が水瓶を傾けている絵だということが分かった。少年はしばらくその絵の前に立ち止まった。”
「たいちょー。なにさぼってんすかー」
という呼びかけが僕の読書を覗き込んできたから僕は慌てて本を閉じた。そのあと、脳を殴打されたみたいな痛みで僕は体の支配権を失う。
「HHッ。田中ぁ!お前は相変わらず真面目だな。あんまりまじめすぎるといつかガタが来るぞ。そうだな、昔の私みたいに。」
ピユはそう一重な二重の目を伏せた。長鼻男は背すじをスッと伸ばして、長い鼻を湿らせたような声でピユを気遣う。
「隊長、あなたにそんな過去が……」
センチメンタルな間を「HHHHHHッ」という肺そのもので笑っているようなピユの笑い声が吹き飛ばす。
「なあに、気にするな!昔のことさ!」
「無理して明るくふるまってくださっている。隊長はなんて優しい方なんだ」とでもいうように長鼻男は敬意の混じった微笑をピユに向ける。
「たいちょー。無理しないでくださいね!ところでたいちょー。まだ、三章までしか呼んでいないんですね。僕なんかは471章まで読んじゃいましたよ。ちょうど主人公が星の出産に出くわす場面です」
「ばかもの!」と僕は田中を怒鳴りつけてやりたかった。だが、ピユはそれを許さない。ふいにネタバレを喰らって放心している僕のつまりピユの横をあなたがつまりサーヤが通っていった。あなたはサイズの合わない鎧の裾から何かを落とした。それは財布だった。
「な゛んだ?これ゛は?」
その財布を拾い上げたのはピユでも長鼻男でもなく大狼だった。
「おいガキ!何か落としたぞ」
大狼は前足の爪に財布のひもを引っ掻けてそれを高く掲げた。あなたはこちらを振り返り、兜のずれを直した。
「おおかみさん!ありがとう!」
あなたがこちらに走って来る。近づくほどに兜がずれていく兜が取れないでくれと僕は願う。
あなたが大狼の前に立ち止まり兜のずれを再び直したとき、大狼は財布をあなたに渡した。あなたはそれを受け取ると「ありがとう。いいものあげる。こっちについてきて」と走り出す。
あなたは狼が付いてきていないのに気が付いて後ろを振り返り手を振る。
「HHッ!狼さん。行っておあげなさい」
ピユが両開きのドアみたいな口でそう笑う。
「遊んでいる場合じゃない。災厄少女を殺さなければならないからだ」
「なるほど。狼さん。あなたの隊長として、一つアドバイスがある。」
「なんだ」
「人探しというのはね、身近なところから始めてみると案外答えに近づくものですよ」
ピユのゴム製ダイヤモンドの瞳が鈍く光る。
「知るか!」
大狼はそう怒鳴ってあなたの言った方向に背を向けた。
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