第20話



 災厄少女に関する講義その1


 ”災厄少女が訪れた街は滅びる”



 僕たちはどれくらい歩いただろうか。振り返ったところで、暗闇には足跡一つも残されているはずもない。なのに僕は目を眇めて、暗闇のわずかな破れ目を探したけどダメだった。暗闇はまるで凪のようだった。

 「もうすぐだよ。」

 リンがそう言ってから、僕たちに踏まれるたびに暗闇は斑を作ってその冷たい無表情が崩れていく。まるで、僕たちは岩かなんかでできた腸の中にいて踏むたびに地面が僕たちを排出しようと蠕動しているみたいだ。暗闇の波が地面の疼きが強まるほどに、出口が近づいていることを僕は確信した。そしてついに、暗闇に針の孔ほどの破れ目が出来てそこから光が差し込まれたとき暗闇は弾かれた弦のように僕たちを洞窟から外へと弾き出した。

 暴力的な眩しさが僕たちを苛めた。

 「なんだあおめえさんたちは?」

 それは、手荒いお出迎えにしては間の抜けた呆けたような声だ。

 「おめえこそなんだ!おめえこそなんだ!」

 あなたが馴れない方言を使って男の質問を繰り返したから僕はフッと笑ってしまった。その笑い声と一緒に眩しさによる頭痛も僕の口から抜けていった。

 演劇の幕を開けるみたいにゆっくりと僕が瞼を開いたら、鼻の先に長い棒のようなものが突き付けられているのに気が付いて目がしらがぞわぞわと疼く。

 「なんだおめえさん。面白い顔だな」

 おじさんの声がそう言いながら傾くとその長い棒のようなものも一緒に僕から倒れていった。おじさんの鼻はまるで木の枝のように細く長くいびつに伸びてその先が地面に当たっている。この鼻こそがさっき僕の鼻先に突き付けられていた棒だった。

 「おめえの方が百倍変だよ!!」

 僕の膝ぐらいしかない小さな少女がそう叫びながらおじさんのすねを蹴った。おじさんは「痛え!」とすねを抱えて飛び上がった。そのジャンプでおじさんの細く長くいびつな鼻がわずかに地面から浮いた。

 小さな少女は僕の足に抱き着いて「ねえ、これからどうするの?」と不安そうにこちらを見上げる。その顔も声も幼さで淡く変わっていたが僕はすぐにこの小さな少女があなただと気が付く。

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