第7話

「あっ5つ目!ほら、石樽と石樽の隙間に雫みたいなカラーパだ」

「7つ目、丘のくぼみをカラーパが蓋してる!」

「11個目、石樽が掻く汗の一つが乾かない。これもカラーパだよ。」

「13個目……」

「17個目……」

 そうやって、隠れカラーパを見つけるたびに僕はサーヤとリンにいちいち報告していたんだけどそれは僕の声を受肉した空間の赤い点とか腫れとか突起に閉じ込められていつまでも相手に届かない。それは、サーヤとリンも同じだった。特にサーヤは隠れカラーパを見つけるのがうまかった。だけど、サーヤの喜びも驚きも全部見えない糸で空間に縫い付けられているみたいに特定の箇所に閉じ込められて聞こえてこない。

 僕たちは、声を置いて行くしかなかった。隠れカラーパを見つけても、僕もサーヤもリンもそれを指さしたり視線を合わせて微笑みあったり互いに手を繋いでそこへ案内することでしか発見と喜びを共有する手段がなかった。

 ある丘の上についたとき僕は背中にドレスシィ城の視線を感じなくなったのに気が付いた。丘のふもとに孤立した門が見える。急に僕の胸から肺がいなくなったみたいに息が出来なくて僕はその場にうずくまった。

 サーヤが僕の背中をさすってくれた。彼女の手のひらから僕の胸に息が直接送り込まれているみたいに、呼吸の喪失はだんだん癒えていく。

 「ねえサーヤ。逃げようよ!」

 僕の叫びは僕に噛まれて歯形を受肉した空間に閉じ込められて、やはり彼女に届かない。

 僕は彼女の手を引いて今すぐここを逃げ出そうと思って、木の幹を頼りに起き上がろうとした。そのときだった。僕の手のひらがするりと木の幹に埋もれていって僕はそのまま前のめりに倒れた。僕の頭も胸も木の中に埋もれた。

 ちょっとすると、僕の身体はあっけなく木の中から引き揚げられた。木は僕の身体を繋ぎ止めようとすらしなかった。

 サーヤが僕の腰を抱いたままその木を指さしている。彼女の音のない笑いが僕の背中で振動する。

 「19個目だ」

 僕が木だと思っていたのはカラーパだった。

 ふいに僕はサーヤの手を取った。そのまま、木に背を向けてもと来た道に帰りたかった。

 「おーい!サーヤ、リン。こっちだぞ!」

 砲弾みたいな声が丘を揺るがせる。ハスの声だ。丘のふもとの孤立した門にハスが立っていてこっちに手を振っている。その隣に、白い毬玉が岩のように立っていてこちらをにらんでいるように見える。

 腕輪の締め付けがきつくなって僕の手首は取れそうになる。僕は、サーヤの手を引いたままゆっくりと丘を降り始めた。

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