第4話
車輪が小石でも噛んだみたいに列車が揺れて、サーヤが僕の方へと傾いてきた。揺れが収まってもサーヤは僕の肩に頭を預けたまま「181,177,1920,35,1932,4212,5321,549171,……。」と謎の数字を数え続けている。不思議な感覚がする。まるで、サーヤの頭は角砂糖で僕の熱で肩に甘く溶けていくみたいだ。その甘味は僕の肩甲骨と首の大動脈にしみ込んで全身を熱く甘くした。
窓から差し込む針のような星光は僕の全身を満たす甘味で中和されていく。
ふいに起こった部屋の揺れが僕からサーヤとの結びつきを千切った。臍帯を切られた赤子のような僕の憎しみは車室を揺らした張本人に向けられる。それは、ハスだった。ハスが急に飛び跳ねて車室を揺らし始めたのだ。
僕は立ち上がり力づくでハスに飛び跳ねることを禁じる。
僕は八重歯で空間に小さな刺し穴を作った。すると、ハスが僕の抑制を破る勢いで飛び跳ね僕の下あごに頭突きを喰らわせた。
空間に出来た刺し穴が壁をすり抜けると
「おい、なにしてる?ハス?危ないじゃないか!」
という僕の声が後ろの部屋から遅れて届いた。
僕の下唇はハスの頭突きと僕自身の歯に潰されて傷ついた。
「みんな!今すぐ逆立ちするんだ。早く早く。」
ハスはそんな突拍子もない事を言い出したかと思うと廊下に飛び出してここからは見えないだれかに呼び掛けている。
「おい、お前も逆立ちしろ。お前もだその奥の奴。早く。」
僕の下唇の傷が開いて血の鉄っぽい味が口内に広がっていく。それは苦い星光を吸い込んだ僕の呼気と混じりあって毒みたいな酷い味になった。まるで、頭を内側から殴られているみたいな激痛と戦いながら僕はハスの気まぐれに抗議しようとした。しかし、ハスは僕たちのために命乞いをしているみたいに必死だ。
「頼む。逆立ちをしてくれ。そうすればみんな、幸せになれるんだ。お願いだ。お願い。」
僕は言葉を呑み込んでサーヤと目を合わせた。毬玉はすでにハスに従い逆立ちをしている。僕とサーヤはお互いに頷きあって、ハスの願いをかなえることに舌。といっても、進み続ける列車の上で逆立ちをするのは至難の業だった。僕は、サーヤが逆立ちするのを手伝った後自分も部屋の角を上手く使って逆立ちをした。まるで、揺れそのものを土台としているような不安定さだったが壁とお互いを支えとし僕とサーヤは逆立ちをした。
「よかった。本当に。これでみんなハッピーだ。みらび、髑髏の首が折れるみや」
そう言ってハス本人が逆立ちをした時、列車がさらに分厚い暗闇を脱いで窓から朝の明るさが入ってきた。夜を支配していた苦い星光は太陽によって世界から掃き出され、純粋な空気の無味が帰ってきた。
「もういいぞみんな」
ハスの号令で僕たちは逆立ちを解いた。ちょうどその時、列車は終点について止まった。ドアが口のように開いて、列車は窒息しかけていた肺みたいに勢いよく朝の風を吸い込む。その勢いと眩しさに抗いながら僕たちは列車から外へ出た。
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