茶色の時間

元とろろ

茶色の時間

 うっかりしていた。

 二月に見つけたチョコレートがとても美味しかったから、今度のお茶会には同じ物を買って行こうと思っていたのだ。

 それが今になってオンラインショップで検索しても見つからない。よくよく調べてみればあの時期の催事場でしか売られていない物だったらしい。


 それではどうにもならない。日持ちしない物だったから在庫が残ってないか店に尋ねても無駄だろう。

 となるとお茶会に持っていく菓子を考え直さなければならないのだが。

 参加者――私ともう一人だけだが――の好みを考えればやはりチョコレートがいいだろう。

 あいつはチョコレートが好きなのだ。

 ただしホワイトチョコレートやルビーチョコレートではなく普通の茶色いチョコレートに限る。


 今までも良いチョコレートを見つけるたびにあいつとのお茶会に持って行ったが茶色いチョコレートならどれも喜んでいた。

 以前好評だった中から選べば向こうも文句は言わないだろうが、それではなんとも芸がない気がして私が嫌だ。

 美味しいチョコレート、それもまだ食べたことがない物を何とかして用意したい。

 さて、どうするか……。



 買ってきたのはごく普通の銀紙包みの板チョコと紙パック入りの生クリーム、そして小さな缶のピュアココア。

 板チョコは包丁で刻んでおく。

 生クリームを沸騰させないように温度を見ながら鍋で温める。

 鍋に刻んだチョコを入れて溶かしてよく混ぜる。

 後は冷やして固めて、小さく分けて、ピュアココアを表面にまぶす。

 それほど難しいことではない。


 難しくはなかったが、実際に作ってみると随分な量になってしまった。

 調べたレシピでは生クリームは100mlだったのだが200mlのパックしか売っておらず、他に使い道もないから全部使ってしまうことにして、それに合わせて板チョコの量もレシピの2倍にしたのだ。

 作った生チョコを皿の上に山盛りにする。

 まあ、多い分には文句はあるまい。


「今日のお菓子はチョコレートだよ」

「いつも通りだ。今日のお茶は紅茶だよ」

「それもいつも通りだ」


 友人は特に怪しむ様子もなく私が作ったチョコレートを食べた。

 私も友人が淹れた紅茶に口をつける。


「美味しいね」

「うん美味しい」


 正直に言えば私に紅茶の良し悪しはよくわからない。お茶会の時は何を飲んでも美味しいと思う。


「このチョコレート本当に美味しい?」

「あなたが持ってくるチョコレートはなんでも美味しいよ」


 つまりこいつも私と同じだ。

 チョコレートなら何でもいいのだ。

 実はその理由については思い当たることがある。


「やっぱり砂糖とカフェインが入ってるからかな?」


 最近知ったのだが、実はチョコレートにもカフェインが入っているらしいのだ。

 つまり私が紅茶を好きなのも、友人がチョコレートを好きなのも、砂糖とカフェインのせいなのだ。


「さあ、他の理由もあるかもしれないよ」


 友人は何が面白いのか、意味ありげに笑った。

 からかわれているような気がして、なんとなくもやっとしたけれど、再び口をつけた紅茶とチョコレートはやはり甘くて美味しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

茶色の時間 元とろろ @mototororo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ