第8話 ゼニジャー☆愛の団子 の巻

(おさよの居場所をつき止めて、ゴンゾウ親分に報告するんじゃ!)

おさよを見失わないように、ゼニジャーは必死に走った。



そこはもう何年も前に人間が住むのをやめた、いわゆる廃墟。と言っても過言ではないほど、ボロボロの長屋だった。


タケノコ売りのボロボロ巾着の中で出会った一文銭が、「馬小屋みてぇなボロ屋」と言っていた事を思い出し、ゼニジャーは深くうなずいた。


おさよは、そのボロ長屋の、一番奥の家に入って行った。


家といっても、今にも崩れ落ちるのではないか?と心配になるほどのボロ屋。

壁には穴があき、そこに草や木の枝を突っ込んでふさいでいる。

屋根だってきっと穴が空いているのだろう。ゴザやワラが乗せてある。

また、扉はなく、ゴザを扉がわりにぶら下げているだけ。


とうてい人間が住めるような家ではない。


なんなら、馬だってこんなボロ屋になんか住まないだろう。


これを見たゼニジャーは、グニャッと顔をゆがめた。

「ひでぇありさまだ」


そこへ、さっきのタケノコ売りの男がやって来た。

「お〜い、チビたち〜出て来〜い」

男がそう言うと、ボロ長屋のそれぞれの家から、ボロボロの着物に薄汚れた顔をした子供達が出てきた。


さっき家に入ったばかりのおさよも、ゴザをめくり、外へ出てきた。


「ほら、団子だ!食え!」

とびっきりの笑顔で男は、たくさんの串団子を子供達に差し出した。


「わぁ〜い!」

まるで満開の桜のように、子供達の顔もパッとはなやいだ。


「おっとーとおっかーの分もちゃんと持って行くんだぞ」

男がそう言うと、子供達の笑顔が、さらに太陽にように輝いた。


こんなに小さいのにみんな、自分だけ食べられればいいなんて思っちゃいない。ちゃんと親の事も考えているのだ。

子供達のその笑顔から読み取ったゼニジャーは、まるで優しい春風にあおられたような心地よさを感じていた。


「わ〜い!おじちゃんありがとう」


子供達の頭をワサワサとなでる男の笑顔は、まるで大黒様のように優しかった。


ボロボロで薄汚れた着物を身にまとっている子供達と男だったが、ゼニジャーには、とてもまぶしく見えた。

「あいつ、本当にいい奴だ」


ゴンゾウにタケノコの代金として小判をもらった男は、小判以外のお金は全ておさよに渡し、そのうえ、このボロ長屋に住む人々に団子をふるまっている。


ゴンゾウが見込んだ通り、「価値のある人間」だった。


「さすがゴンゾウ親分。見る目があるぜ」

ゼニジャーはそうつぶやくと、誇らしげにニヤッと笑った。


男はおさよの姿を見ると

「ちゃんと米は買えたかい?」

そう言って二本の串団子を渡した。


それを見たゼニジャーはピンときた。

(おさよはきっと、母親と二人暮らしなのじゃな)


「おさよ、今日仏様みてぇな人が現れてな、タケノコの代金に金ピカの銭もらったんだ。だから、おさよんちに、扉付けてやっからよ」


「え、ホントに!」


「ああ、もちろんだ!ずっと気になってたんだけどよ、なかなか扉が手に入らなくて……ずっと放置しててすまなかったな」


おさよは首を横に振り、嬉しそうにほほえんだ。


「よし。じゃあ今日は米のまんまと団子が食えるな。こりゃご馳走だ!ハッハッハッッ」

おさよの頭をワサワサとなでながら、男は声高らかに笑った。


「うん。ありがとう」

いくら薄汚れた顔でも、おさよの笑顔はキラキラととてもまぶしかった。


そして男も輝く笑顔を見せた。


美しい……


こうして団子を配り終わった男は、おさよの家と反対側の、一番手前のボロ屋に入って行った。


「あの男も十分貧しいのに……立派な男じゃ」

そうつぶやくとゼニジャーは、きびすを返した。


どんなに貧しくても、ここに住む者たちの心はとても豊かなのだろう。そうゼニジャーは感じていた。


お金のありがたみをよく分かっていて、そのうえ、〝自分だけよければいい〟なんてセコイ考えはみじんも持っていない。


助け合う事は当たり前。笑顔を見れば嬉しくて、〝ありがとう〟という言葉をもらうと幸せになり、また明日も頑張れる。


本当に素晴らしい。


ゼニジャーは、まるで心が洗われたように感じていた。




その夜、いつもの黒装束に身を包んだゴンゾウは、サッと大きな風呂敷を広げた。


そして、将軍から預かった千両箱をその風呂敷で包むと、ヒョイと背中にしょった。


「ゼニジャー、行くぞ」


「へい!ゴンゾウ親分!」


こうしてゴンゾウとゼニジャーは、将軍よりおおせつかった任務を果たすべく、暗闇の中、あのボロ長屋目指して出発した。


〜つづく〜

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