第7話 ゼニジャー☆おさよ の巻

(なぁに、ここからが本番さぁ。ゼニジャーあとは頼んだぜ!)

ゴンゾウは心の中で、そうつぶやいていた。


タケノコの代金としてゴンゾウに小判をもらった男は、去り行くゴンゾウの背中へ向かって手を合わせていた。

「仏様のようなお方だぁ〜。ありがてぇ、ありがてぇ」


そして、ゴンゾウの姿が見えなくなると、もらった小判と一文銭、つまりゼニジャーをボロボロの巾着に入れると、それを両手ではさみ、ふたたび祈りを捧げた。

「ありがてぇ、ありがてぇ」

そして、大事そうにボロボロの巾着をふところへ入れると、着物の上から両手でギュッと抱きしめた。


いっぽう、そのボロボロの巾着の中には、小判とゼニジャーの二人だけ。


つまり、タケノコはゴンゾウが買った一本しか、まだ売れていない、という事。


(なんだ、まだ誰もいねぇじゃねぇか)

ゼニジャーはそう心の中でつぶやくと、「ハァ」と一つ、息をはいた。


「なぁ、ゼニジャー。オレは、こんなにありがたく思われたのは初めてだ。だいたいオレを手にする人間どもは、当たり前ってな顔でオレを自分のふところに収めると、あとはぜいたくする事ばかり考えていやがる。こんなに〝ありがてぇ、ありがてぇ〟なんて言われると、なんだか申し訳なくなっちまうぜ」

小判はゼニジャーに向かってそう言った。


「まぁ、おまえさんが出会う人間は、金持ちばかりじゃからな。銭のありがたみなんざぁ、そんなに感じてもいないのじゃろ」


「ああ、ゼニジャーの言う通りだな」


しばらくすると、ボロボロの巾着の中は、一文銭でいっぱいになった。


つまり、タケノコが売れたって事。


ゼニジャーは、さっそく話しかけた。

「よぉ。おまえさんたち。見ちゃいられないほど貧しい人に出会った事はあるかい?」


「ああ。あるさ」


「その人はどの辺りにいるんじゃ?」


「ここから北の方へ少し行けば、貧しい人ばかりさ」


「そりゃひでぇもんだぜ。みんな馬小屋みてぇなボロ屋に住んでよ」


「親が元気な家はまだいい方さ。働き過ぎで親が寝込んじまった家なんざぁ、子供が働いてる。あわれなもんだぜ」


一文銭は口々にようすを教えてくれた。


それを聞いたゼニジャーは、顔をしかめ首を横に振った。

「悲しい話じゃな」


すると男の声がした。

「よぉ、おさよ。花は売れたかい?」


「全然売れなかったよ」


おさよと呼ばれているその少女は、花を売り歩いていたようだ。


ゼニジャーは、耳を澄ませた。


一緒にいる小判も、他の一文銭達も、身動き一つせず、耳をそば立てた。


「ところでおさよ、おっかさんの具合はどうだ?」


「ずっと寝てる」


「そっか……飯はちゃんと食ってるのか?」


「このあいだ、おじちゃんがくれたタケノコを食べたよ」


「タケノコだけかい?」


「タンポポも食べた」


「そうか。今日はタケノコ、全部売れちまったからないけどよ」

男はそう言うと、ゼニジャー達がいるボロボロの巾着を取り出すと、中のお金を全部手の上に乗せた。


「今日はこんなスゲーのをもらったんだよ」

そう言っておさよに、小判を見せた。


「わぁ、キレイ」


「こんな凄い銭をもらった恩返しだ。あとは全部おさよにくれてやらぁ」

そう言って男は、小判だけまたボロボロの巾着に戻すと、ゼニジャー達一文銭を全て、おさよに渡した。

「これでおっかさんに精のつくものでも食べさせてやりな」


「いいの?」


「もちろんだ!オレはこの金ピカがあるから、しばらくは大丈夫だ」


「ありがとう。おじちゃん、いつもありがとう」

おさよの声は、喜びに揺れていた。


こうしてゼニジャーは、タケノコ売りの男から、おさよという名の貧しい少女の手に渡った。


おさよは、もらったお金を大事そうに着物の袖に入れると、それを抱きしめたまま走り出した。


そして、そのお金で少しばかりの米を買うと、嬉しそうに笑った。


「良かった。おっかさん、これ食べたら元気になれる」

おさよは、手にした米をギュッと抱きしめた。


おさよの手から、米屋の手に渡ったゼニジャーは、米屋が料金箱に入れようとしたその瞬間、ジャンプした。


「あれあれ、落としちまったよ」

米屋はあわててゼニジャーを探した。


しかしゼニジャーは、あっという間におさよを追って走り出していた。


(おさよの居場所をつき止めて、ゴンゾウ親分に報告するんじゃ!)

おさよを見失わないように、ゼニジャーは必死に走った。


〜つづく〜

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