第6話 ゼニジャー☆その正体とは・・・ の巻
「オイラはな、エン坊、ただの銭じゃあないんじゃよ」
そう言ってゼニジャーは、ニヤッと笑った。
それは、ずーっとずーっと昔、まだエン坊もにゃん太もアチャもリリーもノンも生まれるずーっとずーっと前の事。
時は江戸時代。ゼニジャーの仲間一文銭や、大判小判といった金貨がお金として活躍していた頃の事。
ゼニジャーの親分ゴンゾウは、将軍に仕える忍者だった。
大きな大きなお城に、広い広い庭。
その広い広い庭の奥の奥。まるで小さな森のように、草木がおいしげるその場所に、将軍は、自分だけの茶室を作った。
もちろんそこは、将軍以外は立ち入り禁止。
それはどんなに偉い公家だろうが、どんなに力のある大名だろうが、どんなに信頼出来る家来達だろうが、大切な大切な妻や子供達であってもだ。
だからとうぜん、将軍以外、誰もその茶室に入った事のある者はいない。
ただ一人、ゴンゾウをのぞいては。
そもそも将軍は、ゴンゾウと会うためにこの茶室を作ったのだ。
それともう一つ、もっとも重要な事のために・・・
さて、この茶室でゴンゾウと将軍が落ち会うのは、ちょうど朝日が昇る頃。
当時のゴンゾウは、今のおデブなゴンゾウとは違って筋肉モリモリのうえ、シュッと引き締まった体で、身のこなしも軽やかだった。
そんな若々しいゴンゾウは、いつものように茶室の屋根裏に忍び込むと、将軍が現れるのを待った。
そして、将軍が茶室に入ってくると、サッと将軍の前へと飛び降りた。
「ゴンゾウ、ご苦労であった」
「ハハッ!」
ゴンゾウは片膝だけを畳に付け、深々と頭を下げた。
忍者であるゴンゾウは、いつなんどき何者かが襲ってくるかもしれない。常にそんな心構えでいる。だから、たとえ将軍がその場であぐらをかいていようとも、ゴンゾウはサッと攻撃出来るように、決して座ったりはしない。
「ゴンゾウ、ようすを聞かせてくれ」
「そりゃもう、ひどいものでした」
そのようすを思い浮かべると、自然とゴンゾウの顔はゆがんだ。
「今回もまたゼニジャーの手柄でございます」
そう言ってゴンゾウはふところに手をやると、一文銭、そう、ゼニジャーを将軍の前に差し出した。
「そうか。またもやゼニジャーが見つけ出してくれたのか。よくやったぞ。ゼニジャー」
将軍のその言葉を聞いたゼニジャーは、ムクっと体を起こすと、ゴンゾウの手からジャンプして、将軍の前でひざま付いた。
もちろんゼニジャーも、いつなんどき何者かが襲ってきたとしても、すぐに戦えるよう、ゴンゾウと同じように、片膝だけを畳に付けたかっこうだ。
ゼニジャーは顔を上げるとこう言った。
「オイラの手柄とかじゃあねぇっす。ゴンゾウ親分が、心のキレイな人にオイラを預けてくれたおかげでやんす」
そして、遠くを見つめた。
昼間のゴンゾウは、忍者のトレードマークである黒装束を脱ぎ、着物姿でまちをウロついていた。
なぜかというと、貧しい人を探すため。
もちろん、それは将軍の命令。
なぜ天下の将軍がそんな命令をするのかって?
それは、貧しい人にお金を与え、少しでも彼らの生活が楽になるようにと思ってのこと。
ゴンゾウが仕えたこの将軍は、心から民(たみ)の事を思いやるとても立派な将軍だったのだ。
でも、まちをウロウロしていたって、本当に貧しい人なんて見付かるのだろうか?むしろ、裕福な人にしか出会わないような気がしないでもないけど……
実はこういう事。
ゴンゾウは、ゼニジャーを使ってゼニジャーの仲間、つまりお金から情報を得ようと考えていたのだ。
なんたってお金は、いろんな人の手に渡り、あちこちへと行くから、いろんな事を知っている。
ただしそれは、小判のような高価なお金じゃあダメ。
いちいち言わなくても分かると思うけど、貧しい人がそんな高価なお金を手にするワケがないからだ。
だから、一番小さなお金の一文銭、ゼニジャーがうってつけなのだ。
しばらく行くとゴンゾウは、道端でタケノコを売っている、泥だらけの男に出くわした。
「立派なタケノコだな。一つもらおう」
ゴンゾウは一番大きなタケノコに手を伸ばした。
実はゴンゾウ、タケノコが大好物なのだ。
「さすがダンナ!お目が高い!今朝とれたの上物ですぜ」
顔は泥だらけだが、男の笑顔はキラキラと輝いていた。
「お前さんがとったのかい?」
「もちろんさ!でも、全部とったりはしてねぇよ。動物が食べる分と、山のために大きく育てなきゃならない分はちゃあん残してある。こう見えてもオイラ、山の事もちゃんと考えてとってるのさ」
まぶしい。
身なりからして、決して裕福とはいえないその男が、ゴンゾウにはとてもまぶしく見えた。
ゴンゾウはふところから小判を取り出した。それは将軍から貧しい人に渡すようにと、預かっているお金。
(この男なら、小判を払うだけの価値はある!)
ゴンゾウは心の中でそうつぶやいた。
そして迷わず小判を男に差し出した。
すると男は首を横に振ってこう言った。
「ダ、ダンナ!すまねぇが、オイラ、つりは持ってねぇんだ。だいたい、こんな金ピカな銭(ぜに)なんざぁ見るのも初めてなもんで、つりがいくらかも分りゃしませんぜ」
「なぁに、つりはいらねぇよ。全部とっときな」
「い、いいんですか!」
「もちろんだ。ついでにこれも一緒に持ってってくれ」
そう言うとゴンゾウは、ふところから一文銭、つまりゼニジャーを取り出すと、男にわたした。
泥だらけの男のほほに、一筋の道が出来た。
涙でほほの泥が洗い流されたのだ。
「ダンナ、ありがとうございます。こんな事は初めてだぜ」
「これからも、山を大切にしてくれよ」
そう言ってゴンゾウはタケノコを手に、その場を去った。
(なぁに、ここからが本番さぁ。ゼニジャーあとは頼んだぜ!)
ゴンゾウは心の中で、そうつぶやいていた。
〜つづく〜
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