第5話 ゼニジャー☆その声は・・・ の巻
「なぬ?ゼニジャーだと?まさか・・おぬし・・・」
その声を聞いたゼニジャーの顔が、急にけわしくなった。
「ま、ま、まさか、その声は・・・」
ビューッと強い風が、辺りを打ちつけた。
アリのノンは身を低くし、飛ばされないようにとふんばった。
「キャー飛ばされちゃう〜」
そう言ってゼニジャーにしがみついたのは、アリのアチャ。
「ゼニジャーさま〜、わたしも〜」
負けじとリリーもしがみついた。
風がおさまり、静けさが戻った。
アチャとリリーはゼニジャーにしがみついたまま、にらみ合っている。
すると今度は、地面からまっ黒い煙がモクモクと立ち込めてきた。
「ムムッ!」
ゼニジャーは低くうなると、すぐに身構えた。
その反動で、アチャとリリーは草むらへと投げ出された。
「キャー」
しかし、ゼニジャーはアチャとリリーには全く気付いていない。
なぜならば、姿は見えなくとも、ここに間違いなく存在する、大いなる氣に全集中していたからだ。
まっ黒い煙は、空へ届くほど大きく立ち込めた。
「おぬしは、ゼニジャーなのか?」
再び低い声が、辺りにとどろいた。
「やっぱり……その声は……」
急に全身の力が抜けたかのように、ゼニジャーは肩を落とした。
空まで立ち込めていた黒い煙が、みるみると小さくなっていく。
「おお……おお……ゼニジャー……」
辺りに響く低い声が、小刻みに揺れている。
再びビューッと冷たい風が吹き付け、まるで辺りを掃除するかのように、黒い煙をキレイさっぱり吹き飛ばした。
するとそこに現れたのは、黒装束に身を包んだ、かっぷくのいいおじいさん。
その姿を見たアリのアチャは、
「フフフ、ずいぶんとおデブな忍者ね」
と言って吹き出した。
「アチャ、失礼でしょ!」
すぐにしっかり者のノンが、アチャの口をふさいだ。
「おお、ゼニジャー」
アチャの声など気にするでもなく、おデブの忍者はゼニジャーに向かって両手を広げた。
しかし、いっぽうのゼニジャーは、再びスイッチが入ったかのように、身構えた。
「声に聞き覚えはあったように思ったが、どうやら勘違いであったようじゃ」
ゼニジャーの顔が、さらにけわしくなった。
そして、続けてこう言い放った。
「こんなデブな忍者は知らねぇ!おぬし、どこの者じゃ?なぜオイラを知っている!」
「ハッハッハッハッハッハッ」
おデブの忍者は、声高らかに笑った。
「おお、ゼニジャー。全然変わってないのぉ。まちがいなく、おぬしはゼニジャーだ!ハッハッハッハッ」
ゼニジャーとは裏腹に、おデブの忍者は嬉しそうに笑った。
「あれからいろいろあってのぉ。忍者を引退したとたん、このざまぁよ。ブタみてぇになっちまったぁ。ハッハッハッハッハッ」
「ま、まさか……でも確かにその声は……やっぱりおまえさんはゴンゾウ親分なのか?」
それまでピンと張った糸のように鋭くにらみ付けていたゼニジャーの目が、急にまん丸まんじゅうのように柔らかくなった。
「おお、そうよ。ゴンゾウよ」
「ゴ、ゴ、ゴンゾウ親分〜」
大粒の涙をなびかせながら、ゼニジャーはゴンゾウへと向かって猛ダッシュした。
ゴンゾウのふところに飛び込んだゼニジャーは、子供のように、オイオイと泣いた。
「生きていたんじゃな。良かった!本当に良かった!会いたかったぜ」
「ハッハッハッハッハッハッ。生きてるワケがなかろうよ。とっくの昔に死んでるがな。ハッハッハッハッ……」
「え、え、え〜〜〜〜〜〜!」
それまで黙って二人を見届けていたエン坊と、にゃん太と、アチャとリリーとノンが、いっせいに声を上げた。
「ハッハッハッハッハッハッ。幽霊に決まっとるじゃろう」
おわんのようなお腹をポンポンたたきながら、ゴンゾウは笑った。そして、地べたを足で踏み付けながら、
「この下で眠っとったんじゃが、〝キャー!ゼニジャーさま、ステキ〜〟なんてかん高い声が聞こえたもんで、目が覚めてしもうたんよ」
アリのアチャとリリーは、思わず手で自分の口をふさいだ。
ゴンゾウを目覚めさせたそのかん高い声の主とは、まぎれもなく、アチャとリリー。二人とも、すぐに気付いたのだ。
「でもそのおかえげで、こうしてゼニジャーに会えたんじゃから、結果オーライじゃがな。ハッハッハッハッハッハッ。」
アチャとリリーは、ゴンゾウのその言葉を聞いてホッと息を吐いた。
「あ、あ、あのぉ」
声を上げたのは、エン坊。
「ボク、エン坊といいます。あ、エン坊って、ゼニジャーさんが付けてくれた名前です。お二人はどういうご関係なんですか?」
「ゴンゾウ親分は、オイラの大切な親分じゃ」
この時、ゼニジャーはある事を思い出していた。
初めてエン坊に「ゼニジャーさん」と呼ばれた時の事。
それと、にゃん太が自分を「親分」と言った時の事。
その時ゼニジャーは、なんだかうれしいような、なつかしいような、不思議な気持ちになっていたのだ。
(そうか、あの時そう感じた理由が、今やっと分かったぞ!)
ゼニジャーは、ずっと眠っていたから忘れていたけど、エン坊に「ゼニジャー」と呼ばれるずっと前から「ゼニジャー」と呼ばれたいたのだ。
さらに、ゼニジャーにとって忍者のゴンゾウは、誰よりも信頼していた「親分」であった。だからにゃん太が言った「親分」という言葉を聞いたとき、無意識にゴンゾウを思い出し、そんな気持ちになっていたのだ。
「あ、あの、ゴンゾウさんはどうしてゼニジャーさんの親分になったのですか?ゼニジャーさんはぼくと同じお金だから、普通なら次から次へと人間の手に渡って、ずっと同じ人のところには、あまり居ないと思うのですが」
たしかにエン坊の言う通り。
「オイラはな、エン坊、ただの銭じゃあないんじゃよ」
そう言ってゼニジャーは、ニヤッと笑った。
〜つづく〜
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