第4話 ゼニジャー☆イジワルにゃん太 の巻

「そ、そ、そんな・・・」

エン坊は今にも泣きそうな顔で、か細い声をしぼり出した。


いっぽうのゼニジャーは、

「オメェさんが親分ならば、オイラはそれに従したがうまでじゃ」

と、うなずいた。


この時ゼニジャーは「親分」という言葉に、切ないような、懐かしいよな、なんだか不思議な感覚を覚えていた。


そんなゼニジャーの言葉を聞いたにゃん太のするどい目が、いっしゅん、空をただようハエのように、フワッとなった。


だがすぐ元のするどい目に戻ると、ニヤッとふてきな笑えみを浮かべ、さらに強烈なビームのように攻撃的な目をゼニジャーへと向けた。


「エン坊、オイラはほかで寝床をさがす。決まったら遊びに来るとよかろう」

そう言ってゼニジャーは、きびすを返すと、スタスタと歩き出した。


「ゼニジャーさん!待って!」

すぐにエン坊は、ゼニジャーのあとを追った。


「ボクもゼニジャーさんと一緒に行きます」


エン坊のその言葉を聞いたゼニジャーは、

「好きにしろ」

と、まっすぐ前を見たまま、クールに言った。


するとエン坊の瞳が、こうこうと輝き出した。そして

(カッコイイ〜!)と、心の中でつぶやいていた。


「はい!好きにします!」


はしゃぐエン坊は、まるで金魚のフンのように、ゼニジャーにピッタリと寄りそって、空き地を出て行った。


あたりがシーンと静まり返った。


その静けさが、まるで終わりの合図かのように、その場で固まっていたアリのアチャとリリーとノンの3人が、そろって「ホッ」と息を吐いた。


今まで争い事など一度もなかったこののどかな空き地では、にゃん太のイジワルな態度は、関係のないアチャとリリーとノンにまで、恐怖を与えていたのだ。


ホッとしたアチャの小さな瞳が、急にキラキラと輝き出した。

「ゼニジャーさま、ス・テ・キ」


アチャの横では、リリーもキラキラな目をしていた。

「うん、今のはカッコよかった。」


そんな2人をよそに、心配そうな顔のノン。

「あの2人、行くところあるのかな?」


「じゃあ、付いて行っちゃおうか!」

アチャがそう言うと、リリーとノンは大きくうなずき、すぐにゼニジャーとエン坊のあとを追った。


すると、土の中から顔を出したのは、モグラのモキチとモグコ夫妻。それと娘のラナ。


モグコは顔をにゃん太へ向けると

「あれはないわよ!ってかさぁ、にゃん太が親分だなんていったい誰が決めワケ?!」

と、声を荒げた。


モグコは、にゃん太よりもずっと前からこの空き地の下に住んでいる。つまり先輩なのだ。


体は小さくても、先輩は先輩。


にゃん太はあわてて

「ち、ち、ち、違うんだ!」

と、ゼニジャーとエン坊が去って行った方へと走り出した。


そんなにゃん太の後ろ姿をにらみ付けたまま、モグコはラナへこう言った。

「いい、ラナ、さっきのはマネしちゃダメなヤツだからね。人には親切にするのよ!分かった!」


「分かってるって!あんなダサイ事、あたしはしない!」

と、ラナ。


「ありゃ天罰てんばつがくだるヤツだな」

と、モキチ。


モグラの一家はあきれ顔で、ゼニジャーとエン坊にかけよるにゃん太をながめていた。


「おい待てよ。冗談だよ、冗談。まにうけるヤツがあるかよ。ちょっとカラカッタだけだって。よろこんで!みんなで一緒に暮らそうぜ」

と、にゃん太はチラチラとモグコの方を見ながら、ゼニジャーとエン坊に向かって、下手な舞台俳優(ぶたいはいゆう)のように言った。


それを見たモグコは両手を上げ、にゃん太へ向かって○のサインを送った。そして、

「まぁ、分りゃいいわ」

と、つぶやきながら、土の中へと消えた。


モグコに続いて、ラナとモキチも土の中へと消えた。


ヒューッと冷たい風が吹き、空き地に残っていたイヤな空気を消し去った。


「やった!これでゼニジャーさまもここで一緒に暮らせるわね!」

まっ先に声を上げたのは、アリのアチャ。そして

「わたし、アチャっていいます」

と、小さな目でウインクをした。


負けじとリリーも

「わたしはリリー。よろしくね」

と、やっぱり小さな目でウインクをした。


江戸時代からとつぜん令和にやって来たゼニジャーは、自分がいた時代には当たり前のようにあった〝人情〟ってものが、現代にはすっかり消えて無くなったのだと、時代の流れを感じ悲しくなっていたところだった。


でもそれも、この時代で生きていくと覚悟を決めたのなら、受け入れなければいけない。そう思い、この空き地を去ろうとしていたのだ。


だが今は違う。


それは思い違いだった。


ちゃんと今でも〝人情〟は残っている!


いくら時代は変わろうと〝相手を思いやる気持ち〟ってものは、そう簡単には変わりはしない!


そう思い、よろこびを感じていた。


「あらためて、おれさまはにゃん太。ゼニジャー、よろしくな」


「ああ!よろしくじゃぞ。にゃん太」


ゼニジャーとにゃん太は、しっかりと手をにぎりあった。


それを見たアリのアチャとリリーは

「キャー!ゼニジャーさま、ステキ〜」

と、黄色い声を上げた。


すると、とつぜん、どこからともなく低い声が聞こえてきた。

「なぬ?ゼニジャーだと?まさか・・おまえ・・・」


その声を聞いたゼニジャーの顔が、急にけわしくなった。

「ま、ま、まさか、その声は・・・」



・・つづく・・

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