第3話 ゼニジャー☆エン坊の悲劇 の巻

「キャー!」


レジの中。1円玉でいっぱいのボックス。


そこにエン坊がほうりこまれた瞬間、悲鳴が上がった。


「やだやだ、あなたきたい!近よらないで!」


レジの中にいた1円玉が、エン坊に向かって叫んだ。


ずっと外にいたのだから、汚れているのはしかたがない。べつに、エン坊が悪いわけではない。


だけど、突然そんな事を言われて、悲しくなったエン坊は、すぐに「ごめんなさい」と頭を下げた。


ガシャン!


大きな音を立ててレジが閉まり、辺りがまっ暗闇になった。すると、


「クッセー!おい、お前、マジクッセー!」


今度は別の1円玉が叫んだ。


どろだけではなく、エン坊には、いろんな臭いもしみ付いていた。


外にいる時には気が付かなかったけど、せまいレジの中では、そうはいかない。


「お前、さっさと出て行け!」

そう言ってだれかがエン坊をつきとばした。と、その時、


ガシャン!


ふたたびレジが開いた。


「ひゃくじゅういち円のお返しです」

そう言いながら店員は、100円玉のボックス、10円玉のボックと、順番にお金を手に取った。


そしてエン坊がいる1円玉のボックスにも、手がのびて来た。つぎの瞬間、まただれかがエン坊をつきとばした。


するとエン坊は、店員の手の下へと押し出され、その手につかまれた。


今さっきここへ来たばかりだけど、エン坊はもうレジを出て、客の手にわたった。


客は111円をにぎりしめたまま、買い物袋をぶら下げ、さっさと歩き出した。


「ごきげんよう、100円さん。あなたの輝きは本当にすてきです。うらやましいわ」


「やぁ10円さん。君のそのもようこそすばらしい。ぼくは好きだよ」


 客の手の中で、100円玉と10円玉がほめ合いはじめた。すると、


「なんか臭くさくありません?」


「ぼくもそう思ってました」


 二人はそう言って、エン坊を見た。


「わ、きったない」

 二人は声をそろえて言った。


「ご、ごめんなさい」

何も悪い事などしていないけど、エン坊は、またもやあやまるしかなかった。


自分の手の中で、こんな事が起きているなんて、まったく知らない客は、スタスタとスーパーを出て行った。


そして駐車場へ行くと、自分の車の前で立ち止まった。


次に、ポケットからまあたらしい財布を取り出すと、エン坊達お金をにぎっていた手を開いた。


ちょうどその時、エン坊の目に、ゼニジャーが駐車場から出て行くすがたが映った。


次の瞬間、エン坊は客の手からとびおりた。


「あ、落ちた」

客はそう言って、手から落ちたエン坊を拾おうと、身をかがめ、

「なんだ、1円か」

と言いながら、エン坊に手を伸ばした。しかし


「わ、きたなっ!財布が汚れちまう」

そう言って、伸ばした手をひっこめた。


そして、100円玉と10円玉を財布にしまうと、車にのりこみ、ブブブブーと行ってしまった。


いっぽう、地面に落ちたエン坊は、すぐに起き上がり走り出した。


「ゼニジャーさ〜ん。待って〜」


あれだけ会いたかった仲間達だったけど、いや、仲間だと思っていたけれど、あんな事を言うなんて、もう仲間じゃない!


それより、自分の事のようにぼくを心配して、助けてくれたゼニジャーさんこそが、ぼくの本当の仲間だ!


エン坊は、心の中でそうさけびながら、ゼニジャーのあとをおった。


エン坊の声に気づいたゼニジャーは、すぐにふりむくと、

「おいおい、せっかく仲間達に会えたってのに、なんじゃなんじゃ〜」

と、あきれたように言った。


でもその顔は、とってもうれしそうだった。


「仕方ねぇなぁ、今日からオイラが仲間になってやらぁ」


「やった!」


こうして江戸時代の一番小さなお金、一文銭(いちもんせん)のゼニジャーと、現代の一番小さなお金、一円玉のエン坊は、仲間になった。


真っ赤な夕日が、泥だらけの二人をやさしく照らしている。




ゼニジャーとエン坊が、草むらに着いた時には、空が真っ赤に染まり、もう太陽も沈みかけていた。


「エン坊、今日は疲れたじゃろう。さっさと寝るとしよう」


「はい。ゼニジャーさん。あの木の根もとにいい寝床があるんですよ」

エン坊はうれしそうに、ゼニジャーの手を引いて大きな木へとかけ出した。すると


「待て!そいつは何者なにものだ?」

と、大きな木の上から、いきおいよく飛び降りて来たのは、トラ猫のにゃん太。


「にゃん太さん、今日からボクの仲間になったゼニジャーさんです。ここで一緒に暮らす事になりました。どうぞよろしくお願いします」

と、にっこり笑顔でエン坊は、にゃん太に頭を下げた。


しかし、にゃん太はキバをむき出し、「シャー」と声を上げると、さらに

「ここの親分はオレさまだ!勝手に決めるなんざ許さん!今すぐそいつをここからおい出せ!」

と、ゼニジャーをにらみ付けた。


「そ、そ、そんな・・・」

エン坊は今にも泣きそうな顔で、か細い声をしぼり出した。


・・つづく・・

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