第4話 反政府組織
『MMM散布。機動テスト
「了解」
俺は最新機LiON《バイオネット》を動かす。
両手に装備されたハンドガン。背中には超振動ブレード《
バイオネット。
反政府組織【ブラッドハウンド】の新しい機体。
高重力下での運用が可能な、高出力と、身軽な武装。
システムを単純化することで、操作性と整備性を引き出すことのできる最高峰の機体へとアップデートしてある。
そのためにはバイオフィルムに書き込まれた魔法陣の分析・研究・再開発が優先された機体。
最強で最凶な機体へと昇華された――。
『L4PPm。バイオネットの起動を確認した。後方二十の位置から来る。対応せよ』
「了解」
高機動をすると機体がミシミシと悲鳴を上げる。
G負荷に機体が追い付いていない。
『危険です。それ以上のスコアは……』
無線の言葉を聞き、俺はバイオネットの速度を抑える。
この機体は。
背中に背負ったMMMエンジンが魔法陣を起動。
降下。
機体が粉塵を舞い上げ、地面すれすれを走り抜ける。
『何をやっているのですか!?』
耳をつんざくトーンに嫌気がさす。
「テストだろ。実戦では低空飛行もありえる」
俺は自分の戦ってきた局面を思い浮かべる。
『しかし――』
言いよどむ通信司令部。
まあ、そんなもんか。
『全機、帰投。演習は終了だ』
張りのある声が耳に届く。
俺は機体を輸送艦へと向ける。
惑星間航行母艦『ハルキア』。
見えてきた敵母艦に向けて進路を取る。
ハッチを開放した母艦にバイオネットを載せる。
金属と機械油の匂いが鼻につく。
コクピットから降りると、俺はハンガーの奥にあるデッキに向かう。
先にいたリリアと出会う。
「お。内藤もここで休息か?」
「はい。少し負荷が大きくて……」
LiON最新機のバイオネットはとんでもない機動性を持っている。
あの戦力を見た限り、このまま政府軍に戻ることもできまい。
どうにかして友軍と連絡が取れればいいのだけど。
ジュースを購入し、喉の渇きを潤す。
「しかし、あんたがあのドルデュプサイアムのパイロットとはね」
「少佐、それは……」
「いや、すまない。君のような優秀なパイロットなら、こちらの言い分も理解できると思うよ。うん」
理解したつもりはない。
いくらLiONの制作者・ライオネットがLiON――
完全なる自由はモラルの崩壊。その先には人類の滅びしかない。
誰かが秩序を持って支配しなければ、世界は前に進めない。
人を導く誰かが必要なのだ。そのためには上位種が必要なのだ。
世界に神が必要だったように。
膨れ上がる増長を抑え込む上位的な存在が人類には必要だった。
それが今では人は堕落した。
自由の名前のもとに、簒奪と怠惰に身を沈め、他者から奪うことをやめようとはしない。
持つ者に持たざる者の思いは分からず、持たざる者は持つ者を妬む。
だから争いは終わらない。
プラネット・アースの東諸国で起きた内紛からはじまった今の世界秩序・戦争もそれが発端と言われている。
「君なら自由を求めると確信していたよ」
リリアは苦笑しながら、オレンジジュースを飲む。
「まあ、自由は欲しいです」
「アタシたちはもう家族だな」
生まれてからずっと何かを求めてきた。
でもその本質がなんなのかは分からない。
ただ惰性で生きてきたが、血肉の身体が不快と思ったこともある。
なぜこうも世界は歪んでいるのか。
しかし、なぜ自由にこだわる。
自由を掲げているがその実、自由を失っている。
LiONパイロットとしての俺達。政府からの乖離。
結局、人は自分にできることを精一杯することでしか、価値を見いだせない。
ここではないどこか、今ではないいつか。
そこで俺達は自分の価値を示す。
そのためには苦労も、憎悪もある。
だが……。
だが?
そこまで思考し、俺は気持ちを表に出せない。
うまく言えないが、本当の自由とはなんだろうか?
そこに生きる意味はあるのだろうか?
分からない。
俺は10分の休息を終えると、シミュレーションルームに向かう。
日頃のトレーニングの一環である。
毎日、食事と給料をもらっている以上、俺もその枠組みから離れることはできない。
やはり自由は人を縛る行為でしかない。
その論理事態が矛盾している。
これじゃあ、人に自由を求めるのはまだまだ先だな。
苦笑を浮かべ、新型機の性能実験をデータのみで再現する。
敵機は政府軍のダークフィザードだ。
その性能は狙撃に特化しているが、接近戦ができないわけじゃない。
あいつの苦手な距離感なら知っている。
が、このデータでは狙撃のみのデータである。
あいつのクセもコピーできていないか……。
俺はハンドガンで狙い撃ちし、ダークフィザードを撃ち倒す。
複数のダークフィザードも、本気の火月とは違い、撃ち落としやすい。
弱い。弱すぎる。
本来のあいつの70%も、その性能を引き出せていない。
やはりこいつらは滅び行く運命だ。
この情報処理能力では政府に負けるのは事理明白だ。
負けると分かっていても戦わずにはいられない。
この自由主義を、彼らはどう思っているのだろうか。
しかし、誰かが波紋を投げかけなければ、世界は変わらないのかもしれない。
彼らが呼びかけることで、世界は少しずつ変わっていく。
その先にある未来は?
可能性は可能性でしかない。
所詮はうわごとだ。
終わると分かっていて、進む奴はいない。
実際はいずれ死ぬだけど。
いずれ死ぬと分かっているのに、なぜこうも抗うのか。
俺には関係ないと思い、訓練を終える。
人は流れに乗って生きるしかないのだ。
その時々に翻弄されて生きる。
それしかないのだと。
俺はもう戦いたくはない。
自由主義者がいなければ、俺も戦わなくてすんだのではないだろうか。
孤児院で育ち、産んだ親の顔も知らず、生きるために軍人になり、そうして流れてきた結果がこのプラントだ。
8時間労働を終えると、俺は割り当てられた自室へと向かう。
物のない殺風景な部屋に。
俺がここにいた痕跡を残してもしょうがない。
すぐに政府軍に戻るのだから。
連絡がつくまではここでじっくりと敵軍のデータを収集するか。
しかし、
「家族、か……」
リリアの言った言葉が胸中に引っかかる。
俺にはそんな望みなんてないと思っていたのだが。
一ヶ月も暮らしていると、彼女らにも同情しているのかもしれない。
ふるふると頭を振り、その考えを振り落とす。
これから殺し会う相手だ。
彼女らを知る意味なんてない。
俺はどうしてここにいるのだろう。
知る必要もない彼女らとなれ合っている。
俺も染まってきているのか、この生活に。
自嘲すると俺は夕食を摂るために、食堂へ向かう。
今日の日替わり定食はなんだろう。
「お。内藤くんじゃないか! 今日はサバの煮付けだよ」
食堂のおばちゃんがすっごく優しい。
それはいいのだけど。
「おばちゃん、転職しないか?」
「ワシはこの活動に少しでも役立ちたいんだよ。今さら変えることもできないよ」
がははは、と豪快に笑い飛ばすおばちゃん。
そういう考えもあるのか。
リリアが手招きをしている。
一緒に食事をしようとしているらしい。
まあ、彼女が悪い人ではないと分かっているが。
分かっているけど……。
サバの煮付けはそうとうにうまかった。
政府軍のマズいメシより、こちらの方がダントツにうまい。
それは分かっているが……。
分かっているけど。
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