第5話:「TS美少女コマンダーとTS金髪白ギャル空挺」

 混成装脚機中隊は、その内より半数ほどをピックアップ。

 2~3機で編成されるチームを3チーム程再編成。それを街の中で戦闘を展開する、第1空挺団へ向ける応援として、街へと進入した。

 第1空挺団、正確にはその第1普通科大隊は街の各所に展開して戦闘行動中にある。

 そのそれぞれに向かい支援を影響するため、城門を潜った後に装脚機の3チームは間もなく別れ、それぞれが独立しての索敵戦闘行動に入った。


 現在、髄菩機の89AWVは。中隊長機の90MBWと芹滝機の93AWVとで、3機編制を組み。縦隊隊形を形成して街を、王都の真ん中近くを通る主要街路を。警戒索敵行動を行いながら進めている。


 加えて。髄菩等の隊形は進行の途中で、配置転換行動の最中であった第1普通科大隊、第1普通科中隊の1個小隊と合流しており。

 今にあってはその小隊と同行。随伴援護を受け、そして同時に随伴支援を提供し、互いを援護しながらの進行行動中にあった。

 現在はさらに、第1中隊の中隊長及び本部との合流を目指して進んでいる。


「――ッー」


 空挺団隊員等に合わせての徐行速度で進む3機縦隊の、2番手に位置し務める髄菩機の89AWV。その砲塔上コマンドキューポラから半身を出し、髄菩は周辺へ警戒の視線を流している。

 危険をいち早く発見するために、機長にとっては不可欠な役割だが。身を晒してそれは神経を張り詰めるものだ。


《――酷いな》


 その最中、身につけるヘッドセットから声が零れ届く。それは先頭を行く中隊長機の中隊長からの言葉。

 前方の90MBWの砲塔上キューポラには、髄菩と同じように上半身を出して周囲の観察警戒に努める中隊長の、ボディスーツに彩られた悩ましい背中のラインやうなじが見える。

 その中隊長の言葉は、損壊した街の惨状を嘆くものだ。


 元は彩り豊かで平和なものであったのだろう街並みは、しかしそこかしこが崩壊し、火の手が上がっている。

 そして街路の向こうには、聳え立つ立派な城――この王都の王城、王宮が見えるが。

 その王宮もまたその一角が大きく崩壊して火の手が上がり、痛ましい姿を晒していた。


 しかし感傷に浸ってなどいられんとでも言うように。直後にはその王城の間近を掠めて、魔帝軍の翼竜騎兵が墜ちていく姿が見え。

 さらに続けては、その二重反動ローターブレードが響かせる独特の轟音を響かせてAH-92Dが飛来。その翼竜を撃ち抜き屠った張本人であるAH-92Dは、獲物の最期を確認するように、墜ちていく翼竜を見降ろすようにしながら、上空を飛び抜けて行った。


 さらに今も、各所では銃撃や砲撃の音が各方から絶え間なく聞こえ届く。


《いつ接敵があってもおかしくない、油断するな》


 その光景を前方上空に仰ぎつつ。中隊長からは促し忠告する言葉が無線より寄こされる。


「ッ、神経使う」


 言われるまでも無く、髄菩は先程から周囲に警戒の意識を張り詰めており。そしてそれによる神経の負担に悪態を吐く。


「――ヨォっ、カワイコちゃん!身を固くし過ぎんなしッ」


 そんな所へ唐突に。何か透る声でのそんな言葉が飛んできたのはその時であった。


「あん?」


 唐突のそれに髄菩は訝しみ。その声の発生源を辿って、自機の右側方の地上へと視線を降ろす。


 そこに、一人の金髪白ギャルが居た。


 少し身長高めの、美肌とウェーブかかった金髪ロングが眩しい、いかにもギャルな美人。

 しかし纏うは空挺団隊員等が纏う、迷彩戦闘服3型改。がっつり着込んだ装備でありながら、防弾チョッキが持ち上がり浮いて、その下の豊かなバストが存在感を示している。

 煩わしいのか鉄帽は脱いで後ろ首に下げている。

 その腕に構えられるは、20式5.56mm小銃 IAR。20式の分隊支援火器仕様。

 そして袖には第1空挺団のワッペン。

 それらの姿格好が、その白ギャルが第1空挺団の隊員である事を示している。現在装脚隊縦隊に随伴する、空挺団の小隊の隊員であった。


「顰めっ面じゃぁ、その魅惑のフェイスも〝ボイン〟も台無しっしょっ。優しく揉み解してやりたくなっちゃう的なっ?」


 その声の主である白ギャルから。続けて上がって来たのはそんな言葉。そしてその白ギャルの美人顔には、しかし下心丸出しのやらしい顔が作られている。

 それは、今はワガママボディの美少女である髄菩を揶揄う、もろセクハラ発言であった。


「自前のそれ揉みしだいて満足してろ」


 しかし髄菩はそれにまともに取り合わず。白けた口調でそんな言葉を叩き返す。

 示したのはセクハラ白ギャルの、しかしおそらく髄菩よりもさらに巨乳であろう、防弾チョッキの下に潜むワガママな果実。


「ありゃー、塩いじゃん――ぎゃんっ!?」


 そんな髄菩の塩返答に口を尖らせた白ギャルであったが、直後にはその口から悲鳴が上がった。

 見れば白ギャルの背後横には別の人影が現れている。

 白ギャルよりもさらに少し高身長で、日焼けした肌に筋肉が逞しく、しかし同時に欲張りな尻腰の凹凸が主張する、逞しくも美人な女。揺れる美麗な漆黒のロング髪がその身を飾っている。

 そして纏う迷彩戦闘服3型改に、ワッペンと階級章が。その女が空挺団隊員の三等陸曹である事を示している。

 強靭なその腕に構え下げるは、7.62mm機関銃 M240G。おまけに陣地に据える際用の三脚を付けたままだ。

 そしてその褐色美人女三曹の拳骨が、白ギャルの脳天に落ちていた。


「戦闘中のドサクサで、問題行動を起こしてるんじゃない。奈織なおり陸士長」


 その褐色美人から白ギャルに向けて、冷徹な声色でそんな咎める言葉が紡がれる。


「ちょッ、マジペインッ!。りょーちん、これヴァイオレンスな問題行動っしょッ!」


 それに白ギャルはそう、泣いて発する声で不服抗議の言葉を返す。


「まず自分のセクハラ問題行動に言え」


 しかしそれに取り合わず、そして褐色美人は言葉を叩き返す。


「すまない、コレは軽率な発言が多いんだ。強く言って聞かせる」


 そして褐色美人は白ギャルをそれ以上は無視して。そして機上の髄菩に向けて、淡々と謝罪の言葉を代わって上げてきた。


「特に気にしてない、面倒はゴメンだ」


 それに髄菩は端的に、同時に引き続きの少しシラけた色で。そうこちらの意思を表示する言葉を返して見せる。


「すまない、恩に着る」


 髄菩のそれをしかし一種の配慮の形として受け取り。それに褐色美人もまたそれに端的な言葉で、礼の言葉を返した。


「あっ痛ー……ゴメンちて。イケてるアーマーガールと戦友いくさともピになりたかっただけなんよっ」


 褐色美人はそのまま警戒しつつ先行して行ってしまったが。

 一方の、今に奈織とよばれた陸士長の金髪白ギャルは。89AWVと引き続き並走随伴し、周辺への警戒こそ器用に維持しながらも。同時にそんな謝罪しつつも絡む言葉を引き続き上げて来る。


「しつこいヤツだな、自分は中身は男だが?」


 そんな奈織に呆れながら、髄菩はそんな自身の正体を明かす言葉を降ろして返す。


「あーっ、やっぱナチュラルレディじゃなくて、メンから変身少女系っ?ウチもウチも!やっぱ運命感じる同胞はらからピじゃんっ!」


 しかしそれに対して、奈織は軽い調子でそんな暴露の言葉を、そして楽し気にそんな言葉を重ねて寄こす。

 その言葉の通り彼女、いや彼も男性から女性への性転換者であった。


「だろうよ、そっちが空挺団の時点で想像はついてた」


 しかしその暴露の言葉に対しても、髄菩は何を知った事をとシラけた色でまた返す。


 今現在、髄菩等の装脚機縦隊に随伴する空挺団の小隊は、実にその半数近くに女性隊員の姿が見えた

 しかし。現在の第1空挺団の事情を語れば、女性は片手で数える程しか所属していないという現状は良く知られている事であり。今の光景はその実情と反するもの。

 それにあっての回答は、今に奈織が暴露した所にもある通りだ。

 小隊に姿を見せる女性隊員の正体は、皆女性に性転換した空挺団男性隊員であった。


 髄菩は自身も美少女に性転換している身である事から。空挺団に見える女性等が性転換した男性である事を、容易に推察していた。


 ちなみに、普通科――歩兵である空挺団隊員等が戦場で女体化する意味、効果は通常であれば薄いのだが。

 今に在っては、街の住民を巻き込んだ混戦状態にあり。その住民達への威圧感を低下させ、接触を少しでも柔軟な物とする事を期待して。

 いくらかの空挺団の男性隊員が、女性の身体へと性転換しているとの事であった。


「同胞ピのホームは54普(第54普通科連隊)?マジヤベェのが多いって噂のヘヴィメタルチームじゃんっ!」


 そんな塩い髄菩に、しかし奈織はさらに押せ押せなテンションで話しかけ絡み続ける。


「一緒くたにするな、イカれの一員になったつもりは自分は無い」

「うへぇ、マジ塩までのクールビューティーっ。イケてるけど同時にぴえんだよぉ!」


 しかし髄菩も徹頭徹尾変わらぬ塩反応で、淡々と言葉を返す。

 それに奈織はふざけた色で嘆く真似の言葉を上げて見せる。


「大隊本部だッ」


 そんな所へ縦隊の前方より、知らせ伝える先行隊員の言葉が届く。

 前方を見れば、街路の十字路が。

 そして縦隊が目指していた、空挺団第1普通科大隊の臨時大隊本部が見えた。

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