第4話:「チェックポイント」
混成装脚機中隊は異世界の魔帝軍勢の蠢く丘を、平原を。その魔帝軍のあらゆるものを踏み倒し退け、走破していった。
敵の構築した陣地線を無力化して。破り踏み倒し越え、また越え。
雑把な楔隊形を維持しながらも、丘を速い速度で飛び跳ねかっ飛ばして行く。それはまるでレースの様相にも見えた。
その最中にも各機からは、各方へ行進間射撃が実施される。
今もまさに先行する90MBWの一機が、旋回させた砲塔の120mm滑腔砲の咆哮を轟かせ。側方向こうに視認した恐竜のようなモンスター騎獣を、また撃ち仕留める。
「――ッ!」
時折、魔帝軍からの魔法攻撃がまるで砲撃のように近くで炸裂。近弾が髄菩機始め各機を揺さぶる。
そしてお返しと言うように、後方の特科大隊のりゅう弾砲からの支援砲撃が進行方向で炸裂、また劈く轟が伝わり来る。
「ビビるなよッ」
《当然》
そしてしかしその中を混成装脚機中隊の各機は、構わず戦いながら飛ばし進み続ける。
髄菩機の内では髄菩が激の言葉を飛ばし、操縦手の藩童から涼しい言葉が返る。
そしてついには混成装脚機中隊は、異世界の魔帝軍が念入りに包囲していた、丘の上の街の正面城門までたどり着いた。
街を包囲していた魔帝軍の最前の構築線を、また射撃投射によりその全てを吹き飛ばして無力化。
塵と瓦礫の山となったそこを、中隊長機の90MBWが乗り上げ跳ね飛ぶ勢いで。荒々しく乗り越えて、その向こうへと踏み込んで来た。
さらに後続の各機が続き、踏み込んで来た先から荒々しくドリフトして各所に停車。警戒隊形に布陣配備していく。
混成装脚機中隊はここまで魔帝軍勢を突破して来る途中で、隊形を再編成して分散。ラインを形成する形で少し広がったため。
この城門前に踏み込んで来たのは90MBWの1個小隊を中心に、7機程の数であった。
「――ッ、っと」
一拍遅れ。その7機チームの殿を務めていた、髄菩機の89AWVが荒々しく跳ねるまでの機動走行で走り込んで来る。
機内で髄菩等三人は振動に揺られ、それによってまたそれぞれの乳を跳ねて揺らしたりしながら。
髄菩機の89AWVは先行到着した各機に倣うように。ドリフトを行いつつの減速から、適当な位置に配置。
35mm機関砲を備える砲塔を旋回させ、警戒姿勢に入る。
「上がるぞッ」
そして髄菩は頭上の機長用キューポラハッチを開き、外部を肉眼で観察すべく、砲塔上に頭を急ぎつつも慎重に出す。
《020、クリアッ!》
《140クリアーッ》
城門周辺に敵は無く。布陣した各機から中隊長機に、通信で報告の声が順次上がる。
「――320、クリア」
そして、キューポラハッチ上に頭を出して周囲へ視線を流していた髄菩は。
同じく周囲に敵影無しを見止め、倣うようにヘッドセットを用いて通信に報告を上げた。
《各方、クリア了解》
その各機からの報告を受けた中隊長機の中隊長は、受け取ったそれに了解の言葉を返す。
「――ハッ」
それを聞きつつ、髄菩は再び視線を周囲に流して掌握。同時に呆れの一声を鳴らす。
街の城門とその周辺には、この街を護っていた騎士団も。そして攻め落とさんとしていた魔帝軍の姿も無く、ここまでの戦闘の激しさが嘘のように閑散としていた。
そして街の立派な城門は、激しく損壊して抉じ開けられた跡が在る。すでに魔帝軍に突破され、雪崩込まれたのであろう。
もっとも、その後に城門周辺を占拠した魔帝軍の一隊もまた。
重迫撃砲中隊の重迫や特科大隊のりゅう弾砲の砲撃を事前に叩き込まれ、今や消し飛んでいたのであるが。
周囲一帯が閑散としているのには、そんな流れからの理由があった。
《戦闘団本部へ。こちらはアズラ、装脚機中隊指揮機。町の城門前一帯を確保、抵抗ナシ支障ナシ》
通信に中隊長の声での、戦闘団本部へ向けての報告の声が上がる。城門前一帯を確保掌握し、それを告げるそれ。
《ライトマス・コマンドよりアズラ1-1、了解した。現在各中隊がブロックごとに制圧を進めている》
それに戦闘団本部からは了解の言葉を、合わせての伝える言葉が寄こされる。
ここまで混成装脚機中隊が駆け抜け突破して来た、丘や草原連なる広域を見降ろせば。
その向こうより戦闘団の各普通科中隊が、割り当てられた攻略ブロックラインごとに進行戦闘を進めていく様子光景が見える。
それは魔帝軍の各陣地を、各要所を、最早統制無く敗残兵同然のそれを。
〝端からていねいに、箒でもかけて攫えるように〟、念入りに制圧していくそれであった。
《コマンド、こちらからの高所支援は必要か?》
《コマンドよりアズラ1-1、そちらは半数ほど高所観測に残せ。そして、街に降下した空挺団より、内部での戦闘激化の報が来ている。もう半数は町へ進入を開始せよ、空挺団への装甲火力提供が必要と見る》
中隊長から続けて尋ねる言葉が発され、それに本部からは説明回答がまた返る。
どうやら魔帝軍に雪崩れた街の中は、苛烈な戦闘状況にあるらしく。先行降下した第1空挺団が火力走行支援を必要としているようだ。
その証拠に、街の城門の向こうからは銃撃砲撃音を主に。激しい戦いの音が響き聞こえてきている。
《了解。高所観測に各機を就かせ、数個チーム程で街への支援に向かう――終ワリ》
中隊長はそれを反復して了解の旨を伝えると、そこまでで本部との通信を終了した。
《各機、聞いたな?主力は残し、数機をピックアップして街に入る》
そして続け、中隊長から各機へそれを告げる通信が寄こされる。
《アズラ2-1、当機に代わりこの場の指揮を取れ》
《了》
中隊長は、90MBWの第2小隊の小隊長機にこの場の指揮権を移譲。小隊長機からは案的な了解の言葉が返る。
ちなみに第2小隊長機の小隊長は、今は男性から王子様系美女に性転換している二等陸尉だ。
《町への進入は当機が指揮を取る。そうだな――アンヴィルゲート、及びエンブリー。当機に随伴せよ》
そして続け、中隊長は街への進入の上で、中隊長機に随伴させる隊機を、そのコールサインを呼んで指定する。
「げッ、名指しかよ」
その内の、〝エンブリー〟というのは髄菩機の89AWVを示すコールサインであった。
白羽の矢が自機に立てられたことに、髄菩は嫌そうな悪態をまるで隠す様子無く吐く。
《アンヴィルゲート、了解》
それにもう一機の指定された機体から、先んじて了解の返答が上がり。
「ハァ――エンブリー、了解」
続けやれやれと倦怠感隠さぬ様子声色で、髄菩も了解の返答を通信上に上げた。
《ヨシ。2チームはアズラ1-2が指揮を取れ。随伴は――》
それぞれから了承を聞いた中隊長は、もう1チームの指名ピックアップの声を通信に上げ始める。
しかし髄菩はそれからは意識を外し、またハァと倦怠感隠さぬ溜息を吐き。
気だるげに上体を倒して、砲主席の薩来の頭にその豊かな乳房の下乳を乗せて預け、だらける姿勢を見せる。
「セクハラ、再び――」
薩来からはボソリと怪しい抗議の声色が寄こされるが、髄菩は取り合わない。
《――髄菩》
そこへ、機長席の正面右手の通信モニターより。スピーカーから声が聞こえ、そして映像が映し出された。
姿を映し呼びかけて来たのは、シュートボブの髪型の金髪が眩しい、キリリとした顔立ちと眼の、気の強そうな美少女。
纏うは服装は髄菩等と変わらぬ軽量装甲戦闘服7-型で、なかなかの巨乳が画面に一緒に映っている。
背景は、89AWVの同型派生型の93AWVの機長席。
その映像通信での呼びかけは。今しがた髄菩機、エンブリーと一緒に指名を受けた、コールサイン・アンヴィルゲート機からのものであった。
《第2ラウンドだな、そっちは支障無いか》
呼びかけてきた気の強そうな金髪美少女は、容姿に反したフランクな様子で言葉を寄こして来る。
彼女、いや明かせばやはりその正体は〝彼〟であるその人。
その名は
階級こそ違うが、その芹滝は髄菩の教育隊の同期であり。交友の広くはない髄菩の、数少ない親しい間柄の隊員であった。
「あったら断りを具申してたさ。ご容赦願いたいね」
《ままならないモンさ》
芹滝は街への進入を一緒にする事になった髄菩に。状況状態を確認がてらに揶揄うために、通信を寄こしたのであった。
髄菩はその揶揄う言葉に億劫そうに返し、芹滝はそれにまた揶揄うように返す。
《アンヴィルゲート、エンブリー、これより街に入るぞ。随伴せよ》
そこへ、通信上に中隊長からの命ずる言葉が割り入り届けられる。
再編成が整い、これより街へ進入するために。中隊長機を随伴を指示する言葉。
《ホラ、せっかくのマムからのご指名だ。気張ろうぜ》
中隊長機からの指示を聞き。芹滝はその気の強そうな美少女顔に、しかし悪戯っぽい笑みを浮かべて。そして中隊長をそんなように表現してから、うながす言葉を寄こす。
「ハッ――行くぞ」
それに髄菩は鼻で笑って返しつつも、機長シートに付き直し。
自機の薩来と藩童に促し、再開される作戦へといくらか気持ちを新たにし、行動へと掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます