第3話:「装脚機、前へ」
街を包囲する戦場から少し距離を離しつつも、一望する事のできる一地点。
そこに髄菩等の89AWV始め、混成装脚機中隊の各装脚機はそこにある木立や草木に紛れるように。偽装を施して、掘り下げた地面にダックインして姿を隠していた。
その各機が順次エンジンの唸りを上げ。〝装脚機〟と呼ばれる所以の、その胴を支える武骨な装脚を物々しく動かし始めた。
装脚機とは――簡単に言ってしまえば脚により機動する歩行戦車、及び装甲車輛だ。
その出自、研究は第二次世界大戦より始まり。現在は各国陸軍の主力の一翼を担っている。
現在に在ってはその詳細な種別分類は多岐に渡り。今のこの混成装脚機中隊もまた、複数種の種類機体で構成されていた。
中隊の中核を担うは、90MBW――90式主力戦闘装脚の、8機2個小隊。
120mm滑腔砲を主砲として備え、その重装甲の胴を大小8つの装脚で支え機動する、8脚式の陸上防衛隊 機甲科の主力装脚機。
続けてが、髄菩等も登場する89AWV――89式装甲装脚機。これにあっては髄菩機を含めて5機。
35㎜機関砲を主砲とし、同じく主装備として対舟艇対戦車誘導弾を備え。小4つ、大2つの装脚を持つ6脚式の、普通科部隊の直掩を主任務とする戦闘装脚機(FWVとも)だ。
さらに89AWVの同型派生型として、誘導弾を排する代わりに90㎜低圧砲を搭載した、93AWV――93式装甲装脚機。これが2機。
そして威力偵察任務を担う、ここまでの物より一回り小型の装脚機。87RWV――87式偵察装脚機。
25mm機関砲を主装備とし、より高い機動力と速度を持つ6脚式の機体。これが4機。
以上、19機からなる混成装脚機中隊の1個中隊。
この中隊に任せられた第一任務は、異世界の軍隊軍勢蠢く戦場に。地上より先陣を切って踏み込み、魔帝軍を蹴散らし侵入点を抉じ開ける事だ。
そして、混成装脚機中隊の現在付随する上級部隊。
今作戦の主力を務める、陸上防衛隊 第54普通科連隊を基幹に編成された、第54戦闘団によって。
崩れた魔帝軍は攫え排除され、一帯の制圧無力化が行われる手はずだ。
ものの僅かな時間で、偽装を解除しダックインより這い出た各装脚機。
すでに作戦開始の指令は降りている。
各機は偽装解除の動きから、流れ移行する様子で事前に定められていた隊形を形作り出す。
そして同時に、先頭突端の配置を担う90MBW各機は。それまで身を隠していた進路上の木立や草木を踏み倒して退けて越え、その向こうへと踏み出していた。
《――聞け。行動、プランは所定通り、隊形は可能な限り維持しろ。射撃攻撃は各機判断に一任する、必要とあれば都度別途指示する》
機動行動を開始して揺れ動く89AWVの機内で。通信により寄こされる中隊長の端的な指示が響く。
「ヘタを打つな、だと」
その意図を自分なりに解釈し、皮肉を混ぜた言葉で機内の他二人に伝える髄菩。
その直後。ほぼ完成していた楔隊形の先頭に、ペリスコープ越し及びカメラモニターに見えていた中隊長機の90MBWが。
その移動形態を歩行から、その装脚の元に備わるコンバットタイヤによる、装輪装甲モードに移行する姿を見せる。
《連中、数で街を囲う宴でご満悦と来た。不愉快だ、これを引っくり返してやれ》
直後に来たのは、中隊長からの冷徹にだが皮肉を利かせた、そんな言葉。
《――始める》
それから寄こされた、中隊長からの麗しいまでに透る声での、しかし端的な一言。
そして――中隊長機の90MBWはエンジンを今までで一番の勢いで吹かし、急加速から急発進。
向こうに見える異世界の戦場へ、真っ先に踏み込む突入行動を開始した。
「戦じゃ――」
それを見止めた髄菩が、また皮肉気に揶揄うようにそんな一言を零し。
そして同じくすでに装輪走行モードへの移行を終えていた89AWVも。それを追いかけるように加速し発進。
機体がまた大きく揺れ。そして搭乗する髄菩等の身体も、今は美少女のそれのたわわな乳房も。それぞれが悩ましく誘惑するように揺れて跳ねた。
先陣を切って突入行動を開始した中隊長を追いかけ続き、しかし慌て焦る様子は各機いずれも無く。
混成装脚機中隊は作戦を、戦闘行動を開始した。
荒々しい機動走行ながらも隊形を維持する各機。
その先陣を務める中隊長機の90MBWが――120mm滑腔砲の唸りを上げたのは、その瞬間。
そして直後にはその向こう正面で、撃ち出され叩き込まれたHEAT弾が着弾炸裂。そこに構えられていた異世界の軍の、簡易な砦陣地を爆炎で包み吹き飛ばした。
それを合図とするように。混成装脚機中隊各機は、それぞれ各個に各方へ射撃を開始。
立て続け奏でるように唸った90MBW各機の射撃砲撃の音が。次には向こうに見える戦場のあちこちで着弾炸裂。
そこにあったまた異世界の軍の陣地を。
固まっていたオークやオーガなどの亜人種の隊列を。
鎮座して攻撃の最中であった投石器を。
ノシノシと移動していた恐竜のようなモンスター騎獣を。
一切合切の区別なく、吹き飛ばして塵に返した。
さらに90MBWを主とするの各機は間髪入れずに第2射を。それが叩き込まれれば、念入りなまでに3射、4射を実施。
執拗なまでに異世界の軍の全てを、吹き飛ばして行った。
その塵にかえったそれぞれが。この戦場で異世界の軍が構築していた陣地線の、一番後方のひとつであったのだが。
異世界の軍勢は突如として現れた装脚機部隊を目の当たりに、最初それが何か検討もつかずに茫然としてしまい。
それが脅威だと気づいた時には、時すでに遅く。彼等は着弾炸裂に引き千切られ、塵へと変える末路を迎えた。
第一撃をふんだんに叩き込み、混成装脚機中隊は敵陣地線への突入を開始。
全機が全て一斉に踏み込むのではなく、突入行動は90MBWの4機1個小隊と、他数機が付随する1チームのみが担当。
他は一度進行を停止して散開配置。後方からの火力支援を行う。
しかし万が一の想定もよそに。異世界の軍の構築陣地線はいとも容易く抉じ開けられ。チームはその無力化された点から易々と突破侵入を果たした。
怒涛の砲火を奇跡的に生き残った異世界の陣地線のわずかな兵力は、すでに大混乱に陥るか茫然喪失としており。
そこを、突入チームと援護の各機それぞれからの投射により屠られ。無力化されて行った。
「とりあえず、ライン一つ突破だ」
髄菩機含む、一度停止して支援配置に着いていた各機は。先行突入チームが突破に成功した様子を見止め、走行進行を再開。隊形を再構築しつつ、先行チームを追いかける。
その走行を再開した髄菩機の89AWVの内部で。髄菩は外部をペリスコープで観察しながら一言を零す。
その刹那。敵の構築線を一つ今しがた突破したばかりだと言うのに。進行方向からまた咆哮が響き届いた。
確認してみれば、先行する90MBWの各機は。すでに次なる敵の構築線や集団を見止め定め、その次なるターゲットに向けての射撃攻撃行動を始めていたのだ。
流石にここからにあっては、進行方向に見える敵の構築線も応戦行動を開始し。
魔帝軍兵士一人一人の弓から、連弩や重弩に至るまでより、無数の矢が雨霰の如く飛来。さらにはこの異世界に存在する魔法の攻撃が、火炎球や雷の槍が飛来し。各機の近辺でまるで砲撃の着弾の如きそれで炸裂。
あらゆる猛攻がこちらの近辺で上がり始めた。
「豪勢な歓迎だッ」
その光景に、髄菩は89AWV内でその美少女顔を少し顰めて零す。
しかし、臆し心配する事は無用であった。
視線の先では、先陣を引き続きと務める中隊長機筆頭の1チームが。その敵よりの猛攻をものともせずに、機体をかっ飛ばして押し上げ。そして次には咆哮をまた上げる。
さらに髄菩機の側方後方よりは、再度支援位置に着いた1機の93AWVの90㎜低圧砲が支援砲撃の唸りを上げ。
魔帝軍陣地に砲撃を叩き込み、その一角を吹き飛ばして見せた。
その上、火力砲撃投射は混成装脚機中隊からのものだけではない。
遠方に配置展開した、54戦闘団付随の重迫撃砲中隊の重迫や、特科大隊のりゅう弾砲からの射撃投射が。
誤射とならぬよう精密に、絶妙に調整された照準により着弾。
混成装脚機中隊に力添えする形で、各所で爆炎炸裂を上げて敵を巻き上げていた。
「ッ」
おまけにそこへ。混成装脚機中隊の上空に、今先に飛び越えて行った混成ヘリ隊のAH-92Dイースターが1機。その二重反動ローターブレードの、独特の回転音を轟かせて飛来し現れた。
こちらの敵戦力が多大と見てか、応援に一機が舞い戻って来てくれたらしい。
その機首に備える25mmガトリングガンの投射が、その向こうに見える魔帝軍陣地に注ぎ込まれて、破壊し瓦礫へと返す様子を見せる。
《ケリオン5-3、こちらはいい。街の方の上空援護に専念してやれ》
しかし中隊長の声が無線に上がり、こちらにあっては上空支援を必要とする程でな無い状況であることを告げ。合わせて促してやる。
《了解アズラ1-1、お節介だったか。必要になったら呼んでくれ》
それに上空のAH-92Dからは軽い様子で返信が返り。AH-92Dはひとまず始めていた投射を終え切ると、上空より離れ街の方へと戻って行った。
しかしそれが去っても、地上では激しく盛大な戦闘が続く。
今も先頭付近に位置する1機の90MBWが、立ちはだかった敵の恐竜型モンスター騎獣を。しかしその120mm滑腔砲の一撃で、叩き返すように退け屠る姿を見せた。
「こりゃ、こっち出番ないぞ」
その嫌でも伝わって来る意欲闘志に、その光景を進行方向に観察しつつ。髄菩はそんな言葉を皮肉交じりに零す。
髄菩機の89AWVは今の所、フォロー配置にて追従しながらも、その火力投射は限定的なものに留まっていた。
「少し、タイクツ――」
その髄菩のふとももの間の砲手席で。薩来は静かに不気味に、ボソリと呟いた。
――――――――――
「弥栄堂」さんの映像作品である「装脚戦車の憂鬱」に影響されていて、その雰囲気やスピード感を再現したかった次第。
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