第41話 ギルマスの思い

 千聡の情報を売った政治屋たちは失脚した。

 探索者の情報を政府が把握しないような制度改正もできた。

 一応の後始末ができたことで、ギルマスの藤里はダン学連代表でもあるT大ダンジョン部長の津田と副部長の久遠を誘い、打ち上げをした。

 「いや、久遠君も付き合ってもらって悪いね。」

 「いえ、ギルマスと食事をしながら話すのは楽しみです。」

 「そう言ってもらえると気が楽になるよ。いつもは津田君と相談することが多いんだけど。飲みに行くとなると、男女二人ではね。妙な噂が立っては津田君に悪い。」

 「悪い噂が立つと困るのは藤里さんのほうでしょう。まあ零と一緒に飲む機会はなかなか作れなかったので、彼を呼んでもらったのは有難く思っています。」

 「おや、そうなんですか。」

 「そうだよ。零と二人で飲むわけにもいかないしね。」

 話しているうちに前菜が運ばれてきた。

 普段の藤里は贅沢な食事はしないが、今日はお洒落なフレンチレストランの個室を借りている。

 盗聴装置などがなく、外国のスパイも近くにいないことはギルドの諜報部が確認してくれていた。

 ギルドが政治屋を追い落としたことは外国の諜報機関が掴んでいる可能性がある。 これからは従来以上に油断できない。

 

 少しお酒も飲みながら三人は食事を楽しんだ。

 最初は当たり障りのない話だったが、次第に話は熱を帯びて来る。

 「君たち探索者は危険をおかしてマナストーンを採ってきてくれている。それなのに権力者に後ろから撃たれるなんて我慢できない。」

 「ふふ、ギルマスの思いは探索者に届いていますよ。」

 「そう言ってもらえるのは嬉しいが、千聡君への襲撃を事前に防げなかった。探索者の個人情報を守る仕組みは作ったが、今後も何が起きるか分からない。」

 「ギルマス、諜報部に所属する立場から言わせてもらえれば、今の政治状況を変えないといけないでしょう。」

 久遠零は諜報部に所属しているので、この国の政治の腐敗ぶりを目の当たりにしている。それに

 「私の両親は大海嘯で命を落としました。政治家は天災だと言って責任を取りませんでしたが、あれは天災などではない。」

 久遠は両親の死後、苦労の多い子ども時代を過ごしてきた。

 「化石燃料を燃やすことで気候がおかしくなったのは分かっていた。それなのに手を打たなかったから大海嘯は起きた。あれは人災です!」

 「零」

 津田部長は久遠の手に自分の手を重ねた。

 「すみません、興奮しました。」

 「いや、君の境遇を考えれば当然のことだ。決断すべき時期なのかもしれない。」

 「決断とは?」

 「私はこれまで、探索者が一般人に怖がられないよう、受け入れられるよう心を砕いてきたつもりだ。配信の効果もあって、今では多くの人に受け入れられていると思う。」

 「ええ、街の人たちの視線を見ても、怖がられている感じはしません。」

 「それに特異種という脅威が生じました。」

 ネット世論などを見ていると、探索者を支持する声は強まっている。特異種から市民を守れるのは政府ではなく探索者だと。

 「ああ、そのとおりだ。だから私は探索者の政党を立ち上げようと思う。これまでは一般人の支持が得られにくかったが、今ならいけると思うんだ。」

 「政党ですか?それはまた偶然というか、シンクロニシティというべきか。」

 津田部長は珍しく驚いた様子を見せた。

 「津田君、どうしたんだい?」

 「実は宗人君と透士君は、加護を受けた立花宗茂公と伊達政宗公から、政に問題があるのだから正すべきだ、血を流さずとも選挙で政権を獲れるのだからと言われたそうなのですよ。」

 藤里は天を仰いだ。

 「そうか、それは天祐と言うべきなのかな。分かった、私はもう引かないことにするよ。君たちの力も貸してもらえるかな。」



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T大ダンジョン部~壊れかけた世界でダンジョンに潜る スタジオぞうさん @studio-zousan

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