第40話 ダンジョンと政(まつりごと)
凛は定期的に湾岸ダンジョンの10層に赴き、地上の星の声を聞く。
それに七音はいつも護衛として同行していた。
今では10層に行くのは苦もないので、七音のメンバーにとって、10層には休息をしに行く感じになっている。
地上では温暖化とともに気候の極端化が進み、暑いか寒いかの二択になりつつある。
だが湾岸ダンジョンの10層はいつも穏やかな気候だ。
危険なダンジョンだが、地上で失ったものがあるような気がする。
今日も特別なお告げはなく、七音と凛は湖畔でのんびりしていた。
先輩たちは散歩に出かけ、一年生は凛も含めてテーブルでお茶をしている。
「ふう、ここは落ち着くわね。」
「そうですね、愛の言うとおり、本当に良い場所だと思います。」
穏やかな風に吹かれながら、持ってきた紅茶を飲む。
「それにしても、千聡が無事で良かったけど、ダンジョンじゃなくて地上に敵がいるとはね。」
「ああ、俺たちはイベントで駆り出されていたが、宗人が間に合って良かった。」
「いや、久遠先輩たちが来てくれなかった危なかった。」
「ふふ、私は宗人が来てくれたのは嬉しかったわよ。」
宗人は照れて頭をかく。
「まあ今回は二人とも無事で良かったが、外国に情報を売るとは。政治の腐敗はどうにもならんな。」
「そうね。温暖化の問題は何十年も前から分かっていたのに有効な手を打たなかったわ。経済格差も広がるばかり。」
「私は母子家庭だから、母に負担をかけたくなくてDフェアリーズに入ったの。先輩たちも似たような環境だった。」
「そうだよな。政治をちゃんとしないと、この国は良くならないよな。」
そのとき、不思議な光に宗人と透士は包まれた。
周りが見えるようになり、異質な空間にいることに気付く。
ヒノキの匂いがする。どうやら木造の建物の中らしい。床は板張りだ。
薄暗いが、少し向こうに囲炉裏らしき灯りがある。
近づいていくと、強いオーラを放つ人物が二人、火の側の敷物に座っている。
「ようやくここへ呼ぶことができたか。」
「まあ座れ。」
その二人は宗人と透士に、床の上に置かれた籐製の敷物に座るよう勧めた。
近づいてみると、歴史の教科書で見たような人物がいる。
宗人と透士を招いたのは、立花宗茂と伊達政宗のようだった。
「驚きました。直に言葉を交わすことができるとは。」
「本当に政宗公なのか。俺は貴方を尊敬しているんです。」
宗茂と政宗によると、二人との間にシンクロニシティが生じて加護を与えることができた。
そしていったん関係ができると少しずつ同調性が高まり、こうして話すことができるようになったようだ。
「シンクロニシティですか。心理学の用語ですね。」
「うむ。複数の出来事が因果関係なく、だが意味的な関連をもって同時に起こる現象のようだな。」
「まあ、お前たちと不思議な縁が生じたんだと俺は思っている。」
どうやら政宗は理屈を好み、宗茂は直感派のようだ。
「まあ論理で理解しがたい現象ではある。ともあれ結果が重要だ。」
「そうだな。ところで仲間が危なかったようだな。地上で何があったのだ?」
どうやら宗茂と政宗はダンジョンの中のことしか知覚できないらしく、先ほどの会話を聞いて千聡の危機を知ったらしい。
宗人と透士は状況を説明した。
「ふむ、結局は政(まつりごと)に問題があるようだな。」
「政(まつりごと)がおかしいなら変えるべきであろう。」
そんな簡単ではないと反論する二人を武将たちは叱咤した。
「選挙とは、戦をせずとも権力を握れる仕組みで良いではないか。我らは多くの血を流さざるを得なかった。選挙は負けても死ぬことはない。」
「どうやら今の民は政治に関わるのを嫌がるようだな。だが何を躊躇うことがある。政に問題があるなら為政者を変えるべきだ。お主たちにもできることはあるだろう。」
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