第38話 反撃

 「ここは危ないから移動しよう。」

 「ええ、そうね。」

 千聡と宗人はマンションの外に向かう。

 マンションの玄関り口に近づいたところで、銃弾が飛んできた。

 「やはり外にもいたか。」

 外の様子を見ようとすると銃弾が飛んでくる。

 これでは動けない。

 「しまったな。ダンジョン用の防具を持ってくればよかった。」

 「私もそれは反省しているの。凛に警告されていたのに考えが甘かった。」

 レベルの上がった今なら銃弾を受けても簡単には死なないとは思うが、動けなくなって拉致される危険はある。

 どうしたものかと二人が思っていると、外で争っているような物音がした。

 顔を出しても銃弾は飛んでこない。

 二人がそうっとマンションの外に出て行くと、迷彩服を着た諜報部隊員とおぼしき侵入者たちと黒装束の忍者みたいな人たちが戦っていた。

 黒装束たちは身体能力が高く、銃を構えた侵入者たちに対し、アクロバチックな動きで刀を振るって切り捨てていく。

 事前の加速もなく跳び上がったかと思うと、マンションの壁を走った。

 さらに空中にジャンプしたままで姿勢を変えるなど、変幻自在の動きだ。

 「宗人、この人たちは。」

 「ああ、探索者だね。普通の人はこんな動きはできない。」

 黒装束たちは、プロの特殊部隊員と思われる侵入者たちをみるみるうちに倒していく。

 中には銃が撃たれた後で弾丸をのけ反って避けた者もいた。

 まるでSF映画のワンシーンのようだ。

 「凄いわね。動きも、ためらいの無さも。」

 「そうだね。地上での戦いに慣れている。それに人を斬るのにためらいがない。きっと対人戦の訓練を受けているんだろう。こんな探索者もいたんだな。」

 ほどなく襲撃者たちはすべて倒れ伏した。

 呆然としている二人の前にリーダーらしき人がやってきて、マスクを取った。

 「「久遠副部長!?」」

 黒装束たちを率いていたのは、帝都大学ダンジョン部副部長の久遠零だった。

 いつも津田部長に毒舌で突っ込んでいる人だ。

 それがこんなことをしているとは想像の外だった。

 「危ないところだったな。」

 「あ、ありがとうございます。」

 二人は慌てて礼を述べる。

 「久遠さんで間違いないですよね?」

 「はは、驚くのも無理はないな。僕だよ。」

 「久遠先輩、この黒装束の人たちは一体。」

 「ああ、普通の探索者は知らないが、ダンジョンギルドの影の部隊だ。」

 驚く二人に久遠は説明した。

 もともとは身体能力に優れた探索者の犯罪者の逮捕は難しいため、警察に協力する部隊として探索者の特殊部隊は立ち上げられたようだ。

 それが、探索者を悪用としたり危害を加えようとしたりする者たちから守るために諜報活動をする影の部隊になったらしい。

 「そうだったのですか。危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございました。」

 「いや、凛君のお告げが無ければ対処できなかっただろう。」

 「それでも、ですよ。俺だけだと千聡を守り切れなかった。対人戦のスキルを磨いている先輩たちを尊敬します。」

 「そう思ってくれるのは嬉しいかな。人と戦うのは楽しいことじゃないからね。」

 「私も本当に感謝しています。隊員の皆さんにも御礼を言わせてください。」

 「うん、皆も喜ぶだろう。君は人気があるからね。」

 そうして話しているところに、顕嗣と蘭が駆け寄って来た。

 「千聡、大丈夫?」

 「何かあるかもしれないと思って僕らは近くのカフェにいたんだけど、出遅れみたいだね。」

 二人は千聡が無事なことを知って喜び、蘭は千聡を抱きしめた。

 「ところで久遠先輩、どうして襲撃者は千聡の住所を知ったんでしょう。」

 「ああ、どうやら外国の諜報部に情報を売った者がいるようなんだ。まあそっちは部長とギルマスが対応するだろう。」


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