第37話 襲撃②

 ピンポーン。

 玄関の呼び鈴が鳴り、千聡は電源の入ったインターホンの画面を見た。

 先ほどの宅配会社の配達員らしい男の姿が映った。

 鍵を開けようかと思ったところで、男から微かな殺気のようなものを感じて千聡は思いとどまる。

 そうだ、津田部長から襲撃があるかもしれないと警告されていたんだった。

 「どちら様からの荷物でしょうか?」

 「えーと、どこからだったかな。」

 宅配便に偽装された段ボール箱の送付状には、帝都大学ダンジョン部と書かれていた。

 「ああ、帝都大のダンジョン部からみたいだな。」

 諜報機関はしっかりもっともらしい送付状も作っていた。

 だが、千聡にとってはあり得ない送り主だ。

 「それはおかしいですね。私がもう引っ越すことを知っているはずですから。貴方たちは何者ですか?」

 「ちっ、面倒だな。」

 後ろにいたほうの男がサブマシンガンを連射する。

 大きな銃声が夜の静寂を破る。

 「まさか本当に街中で銃を撃つなんて。」

 千聡は驚いた。

 平和な日本で普通に暮らしていれば、銃声など聞くことはない。

 一瞬体が硬直したが、咄嗟にドアの横の厚い壁に張り付いた。

 ダンジョンでは危険にさらされてきたので、体が自然に反応する。

 薄い鉄板でしかないマンションの玄関のドアはハチの巣のようになり、鍵も粉砕された。

ドアを抜けて銃弾がリビングに飛び込んできた、千聡は射線の届かない場所にいた。

 もうじき敵がドアを開けて入ってくるだろう。

恐怖もあるが、同じ人間同士でこんなことをする相手への怒りが湧いてくる。

ドアから入って来た瞬間に横から蹴り飛ばそう。

でも二人いたはずだから、もう一人はどうしようかな。

 こんなことならダンジョン探索用の防具を付けておくべきだったと唇を噛む。

 「地上の敵に気を付けろ」という凛の警告をもっと本気で受け止めるべきだった。後悔先に立たずとは、やはり昔の人はいいことを言っているなあと千聡は思った。

 そうして襲撃に身構えていたが、なぜか銃声が止み、「ぐお!」というくぐもった声が聞こえた。

 どさっと人の倒れる音も二回した。

 あれ、何があったんだろうと思うと、聞き慣れた声がした。

 「千聡、大丈夫か?」

 どうしてここに彼がいるんだろう。

 戸惑う千聡の前に、ハチの巣のようになったドアを開けて現れたのは宗人だった。

 「宗人、どうしてここに?」

 「いや、実は津田部長から状況を聞いて心配だったんでな。近くにいたんだ。」

 頭を掻きながら照れ臭そうに宗人は答えた。

 「そうだったの。ありがとう、宗人。相手は二人いたみたいだから、私一人だと対応しきれなかった。」

 「役に立てたんなら良かった。それにしても、本当に銃を乱射して突っ込んでくるとはなあ。ここはどこの戦場かと思ったよ。」

 「そうね、襲撃があるかもしれないと聞いていたのに、どこかでそんなはずはないと思っていたわ。」

 

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