第36話 襲撃①

 「ふう、急に引っ越せと言われてもねえ」

 千聡は段ボール箱を詰めながらぼやいた。

 津田部長が焦った様子で電話してきて、外国の諜報機関から狙われるから引っ越すように指示された。

 説明されて状況は一応理解したが、街中で拉致なんてことを本当にするんだろうかと思ってしまう。

 だが部長は本気みたいで、寮の空き部屋を確保し、引っ越し業者も強引に手配したようだ。

なんと明日にはもう引っ越しができるという。

 梱包もすべて引っ越し業者さんにお任せできるようだが、人に触られたくない物もある。だから慌てて自分でも詰めているのだった。


 その頃、美邦と透士は外の用事を終えて帝都大に戻る途中だった。

 政府のダンジョン関係のイベントに招かれたので、断ろうと思ったのだが、ダンジョンギルドやダン学連が重視ししている一般の人と探索者が交流するイベントだったので引き受けたのだった。

 「しかし美邦先輩、何だって急にイベントが入ったんですかね。」

 「さて、部長はもしかすると外国勢力の介入かもしれないと疑っていたね。」

 「僕らのプライバシーが外国の諜報機関に漏れているかもしれないっていう話と関連があるとしたら、僕らをバラバラにするためですか。」

 「そうかもしれないので、顕嗣と蘭、宗人の3人もイベントに呼ばれていたのを断ったみたいだね。」

 そのイベントを企画したのは例の副大臣だった。

 七音のメンバーの中でも帝都大に所属しているメンバーをイベントに呼んでほしいと某国の諜報機関に依頼されたのだ。

 「儂が招いたのに2人しかよこさないとは、不敬だ」

 「まあ副大臣、先日の特異種の討伐の後に休んでいたところに無理をいって頼んだのですから仕方ありません。」

 「そうは言うがな、課長。世話になっている人から頼まれていたんだ。儂にも面子があってだな。」

 「ほう、その世話になっている人というのは、どのような方ですか。」

 「ああ、いや、個人的な知り合いでな。」

 課長はどうも怪しいと思い、後でギルマスの藤里に連絡しようと思った。


 「ピンポーン!」

 千聡のマンションの別の部屋のインターホンが鳴った。

 「はい、どちら様でしょうか?」

 「宅配便です。」

 宅配会社の制服を着た真面目そうなおじさんだったので、住人は玄関の鍵を開ける。

 「よし、簡単に侵入できたな。」

 「日本人はアポイントがなくても業者が来たら鍵をすぐ開けるから楽だな。」

 さきほどインターホンを鳴らした男は真面目そうな表情を消すと獰猛な笑みを浮かべた。

 彼らは某国の諜報部隊員だった。

 一人は制服の下に隠していた拳銃を抜き、もう一人は宅配会社のロゴの入った段ボール箱からサブマシンガンを取り出した。

 「本当にこの国は平和ボケしているな。」

 「ああ、探索者は身体能力が高いといっても小娘一人だ。簡単な任務だな。」

 侵入者たちは足音を立てずに階段を上っていく。

 

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