第35話 地上の敵
凛は定期的に湾岸ダンジョンに七音と潜り、あの不思議な
第二の特異種を倒してからは地の星の声は聞こえていない。
次の特異種が現れる可能性は凛も七音のメンバーもあると思ってはいたが、少しゆっくりした気持ちになっていた。
強くなった七音にとって湾岸ダンジョン10層に行くことは散歩のように気軽なものになっている。
凛もダンジョンに慣れて来て、特に気候の穏やかな湾岸ダンジョンの10層では、カフェで七音のメンバーと一緒に寛ぐようになっていた。
そんなある日のこと。
いつものように不思議な社に転移し、地の星に祈りを捧げた凛は深刻な表情で戻って来た。
「どうしたんだい、凛?」
「久しぶりに地の星の声を聞きました。」
緊張が走る。
「地の星の声は何を告げたの?」
「敵は魔物だけではない。地上の敵にも注意せよ、とのことでした。」
「地上の敵?」
「何だろう。反探索者勢力のことかな。」
「とにかく部長に報告しなくちゃ。」
急いでダンジョンを出て、津田部長に連絡をとった。
七音の報告を受けた津田部長は考え込んだ。
「うーん、地上の敵かあ。」
真っ先に思い浮かぶのは反探索者勢力である。
探索者は人並み外れた能力があるので嫉妬もされるし、怖がられることもある。
自分たちと違う者を排斥したいという思いを無意識に持っている人も少なくない。
だが、ギルドとダン学連が行ってきた被災地のボランティア活動で探索者に好意的な人が増えている。
それに特異種が現れたことで、探索者に守ってもらう必要があると考える人も増えているはずだ。
「このタイミングで反探索者勢力が動くことは考えにくいなあ。零はどう思う?」
副部長の久遠零は少し考えてから答えた。
「そうですね。確かに今の状況では反探索者勢力の線は薄いでしょう。ありえるのは外国の諜報機関でしょうか。」
普通の学生は諜報機関のことなど知るはずはないが、副部長の
政府の防諜能力があてにならないので、ダンジョンギルドは独自の諜報機関をつくっていた。
「外国の諜報機関?」
そう聞き返した瞬間、津田部長の目に理解の色が浮かんだ。
「そうか、第二の特異種を被害なしで討伐できたのは日本だけだ。その秘密を各国が探らないはずはないね。」
「七音のメンバーの名前や所属大学は公表されていますし、動画配信で顔は知られていますから、接近して情報を得ようとする可能性はあります。」
「うーん、七音の友人関係を洗って、友人を買収するか何かして情報を取ろうとすることはありえるね。ただ、それだと地上の敵に注意せよと警告するほどの脅威じゃない気がするなあ。」
「そうですね、もっと脅威となる情報の取り方となると。」
「諜報機関なら拉致もありえるけど、白昼堂々と大学に乗り込むことはないだろうねえ。」
二人はしばらく黙って考えたが、はっとした様子で零は口を開いた。
「七音に関する情報は、心得系スキルや加護に関することはギルドが厳重に秘匿されていますが、メンバーの住所なんかは政府も知っています。」
「そうか、その情報が外国の諜報機関に流れる恐れはあるね。」
「ええ、どこかの政治屋が賄賂をもらえば情報を漏らしかねません。」
津田部長の顔に深刻な表情が浮かんだ。
「すると、危ないのは千聡君か。」
「ええ、ダンジョン寮は探索者が大勢いますし、セキュリティ対策も講じてあります。狙われるとすると千聡さんでしょう。」
「まずいね。千聡君の住む民間マンションじゃ諜報部隊をとても止められない。早くダンジョン部の寮に引っ越させないと。」
津田部長は立ち上がった。
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